人びとの行動を抑えて「ゼロリスクを求める」ことが、根本的解決につながるのか?「交通事故がおこるから車は廃止」とはならないだろう。
遺体からウィルスは排出されないのに、お別れ、葬儀さえできないのはおかしい、と批判するウィルス学者もいる。人間は、病気をおこす微生物やウィルスを「病原体」と呼んで敵視してきたが、新型コロナウィルスは撲滅できる敵なのか? 根絶したウィルスは天然痘と牛疫(ウイルスによる牛などの伝染病)だけだ。
山本太郎・長崎大教授は、地球は微生物の惑星という。その生息域は上空5000メートルから地下1000キロメートル以上、あらゆる水圏、土壌に生息。海洋生物の90%が微生物で総個体数は100億×100億×100億個、その重さは全人口の総重量の3000倍。さらに、ヒトの体内には1000〜4000種、100兆個の常在細菌が精巧な生態系をはりめぐらせている。
北太平洋の海水のプランクトンの細胞内には842種類のウィルスが確認されたという。2020年、ヒトには少なくとも39種のウィルスが常在すると発表された。
地球の歴史46億年を1年とすると、原始生命は2月下旬。ウィルスは5月初め(30億年前)。多細胞生物は10月半ば。ホモサピエンスは年が変わる20数分前に誕生した。農耕開始は1分少し前(この頃、コロナウィルスはコウモリを宿主に選んだという)。
ウィルスは生命の進化に深く関わり、宿主の遺伝子の働きを調整したり、感染を防御するなどの働きをしている。例えば胎盤をつくれるようになって、哺乳類が、やがてヒトが、誕生したのもウィルスのお陰。
人間は、「感染が蔓延」「新型を発見」「変異種が…」などと騒いでいるが、ウィルスにすれば、安住していた生息地にヒトが踏み込んできたので、宿主として入り込んだわけだ。宿主が死ねば増殖できないから共生を求めて。
病気を起こすウィルスは1%。それだけを選別して撲滅することはできない。徹底した除菌・滅菌が「新しい生活様式」として推奨され、新商品の開発と販売が盛んだが、共存してきた圧倒的多数の微生物やウィルスをも同時に痛めつけている。「新型コロナ撲滅」がいかに傲慢で無謀な考えか気づかなければ、さらなる逆襲は不可避だ。既に、崩れ始めた氷河から飛び出してくるウィルスとの遭遇はそう遠くない現実になっている。「人間はこれまでも、これからもウィルスを受け入れ、共に動的平衡を生きていくしかない」(生物学者・福岡伸一氏)。この視座から「コロナ禍」と向き合い、地球と人類社会の将来を考えていきたい。コロナが浮き彫りにしたもろい社会のあり方こそ、たたかう相手だ。
(つづく)