独裁体制から民主主義へ

非暴力闘争の戦略 闘う民衆の必読書

社会革命めざす政党の革命戦略や路線が現実の社会情勢に対応できなくなったときは、その戦略・路線の転換や立て直すために努力が必要なことは言うまでもないだろう。それは「暴力革命か平和革命か」という二項対立でものを考えるということではないだろう。
非暴力抵抗運動にこだわり、その有効性について戦略的に研究したジーン・シャープの『独裁体制から民主主義へ』から学ぶことは多い。長い間、マルクス派の間では、「革命的暴力」が現状変革の産婆役として積極的に肯定されてきた。ベトナム戦争や、現在のミャンマーのような軍部の激しい暴力に対して、武装解放闘争が必然性を持っていることは疑いない。

「武器」としての非暴力

だが、ジーン・シャープが『独裁体制から民主主義へ』で展開している非暴力抵抗闘争という「武器」についての戦略的考察は、武装闘争から一歩距離を置いた立ち位置から、圧倒的な暴力とどのように闘うべきかという視点を与えてくれる。
そして、あらゆる非暴力抵抗闘争を追求していくことが、独裁国家においても日本のような議会制民主主義が機能しなくなったような国家においても有効な手段であることを実感させてくれる。この本はたたかう民衆の「教科書」なのだ。
シャープは、非暴力闘争を倫理的・宗教的観点からではなく、軍事的観点から戦略的な闘争理論として考察している。「独裁体制崩壊を成功裏に収めるにあたり、苦難と死が無駄に費やされずに済む最も効果的な方法は何かを注意深く考察する」ことのその必要性を説く。
独裁体制のアキレス腱を17点にわたって指摘し、198の非暴力的行動を取り上げ、集中攻撃と拡散攻撃を柔軟に実践し、「戦略と戦術を練るために、相当数の方法を注意深く学び訓練を受けた民衆が執拗・大胆に実践すれば、どんな不条理な政権も大きな問題に直面するだろう」と述べる。
多岐にわたる実践課題について考察しているが、戦略的計画を練ることの重要性や軍隊(工作)重視の箇所には、唸ってしまう。内容を薄めず紹介する力はないが、著者が実際の独裁国家で、たたかう民衆と一体となって戦略戦術を議論し考察し、独裁とたたかう18カ国の言語に訳されている。実践の書として読まれている貴重な書である。NHKEテレの『100分de名著』でも紹介された。(多田幸三)