
1945年2月に行われたヤルタ会談での約束通り、ドイツを凹ましたソ連は8月9日、日本に宣戦布告し、ソ連・満州国境の東部、北部、西部から雪崩をうって満州に攻め込んだ。日本人が、よく日ソ中立条約を破ってソ連が攻めてきたと非難するが、日本は偉そうなことは言えない。1938年に張鼓峰事件、39年にノモンハン事件、41年には関東軍特殊演習などを引き起こしている。特に関東軍特殊演習は、独ソ戦で満州地域のソ連軍の軍事力が手薄とみた関東軍が大兵力をもってソ連領に攻め入った。
五味川純平と
漫画家たち
満州国が崩壊する過程を述べていくのに、五味川純平の体験的小説である『関東軍私記~虚構の大義』(文春文庫・kindle版550円)と、『ボクの満州~漫画家たちの敗戦体験』(中国引き揚げ漫画家の会編、亜紀書房/1995年発売時1505円+税)の2冊を参照する。
『関東軍私記~虚構の大義』は、1919年の関東軍創設から45年に壊滅するまでの客観的歴史事実を述べながら、満州東部に配属された関東軍一兵士の戦争体験を描いた小説である。関東軍上層部の頭の中には、「うぬぼれ」と「楽観」と「無反省」の三つしかなかった。最大兵力74万人を有する「関東軍は無敵」で「ソ連軍は弱い」という独断でノモンハン事件などを引き起こした挙げ句に、完膚なきまでソ連軍に打ち負かされて、多くの将兵が犠牲になった。しかし、ノモンハン事件当時の作戦参謀だった辻正信は、なんの責任も取らずに戦後は国会議員にまでなった。
このような軍指導部の方針の下で、末端の兵士はどういう末路をたどったか。五味川は、杉田という狙撃兵を通して1945年8月9日以降の満州東部でソ連軍と戦った関東軍部隊の最後を描いた。
(こじま みちお)
