「市民の力がドイツの脱原発を決めた」と話すおしどりマコさん(右)、ケンさん=3月10日、大阪市内

福島第一原発大事故から13年。大阪では3月10日、さよなら原発2024関西アクション―原発やめて! 核燃サイクル中止―という集会、デモが開催されました。
原発ジャーナリストでもある異色の漫才師、おしどりマコ・ケンさんによる脱原発トークライブが行われ、笑いの内に日本の原発政策の闇が暴かれていきました。
福島原発事故後、劇場の自主規制で「原発」と「爆発」という言葉を使うなと言われた二人は、こいし師匠の「芸人は国のためにしゃべるな。目の前のお客様の幸せのためにしゃべれ。そこ、まちがえたらあかん」という教えを守って今も活動しています。
2011年3月の原発事故から東京電力の記者会見、経産省、原子力保安院(当時)など様々な省庁、地方自治体の会見や、議会・検討会・学会シンポジウムを取材。福島にも頻繁に足を運んでいます。

電通の情報操作

2011年3月、お盆や正月と比べ物にならないくらい沢山の人が東京から避難していました。しかし、ニュースになりません。東京電力の記者会見でも当初は200人ぐらいいた記者の数が減る一方で、ついにはおしどり2人のみになったことも。
「なんでこんなに急に記者が減ったか、陰謀論みたいに思っていた」おしどりマコ・ケンさんに、2018年、長野のミニコミ誌『たぁくらたぁ』の野池編集長から声がかかりました。情報開示請求して山ほど公文書が出てきたから、いっしょに分析してほしいと。
それは原発事故後、広告代理店の電通にどのくらい予算が下りて、各省庁が何をさせていたかという公文書でした。風評被害払拭、不安払拭という名目で、多額の予算が下りていました。2012年の「ふくしま農林水産物安全・安心メディア発信研究会」の開催概要によると、電通が毎月、福島のTV局やラジオ局にポジティブ(復興がんばろう)を増やしてネガティブ(原発怖い)を減らす報道をするよう、ずっとレクチャーしていました。ポジティブを増やすためにTOKIOに桃を食べさせたら効果がある。そのとき、「安全」という言葉は危険を連想させるから「美味しい」と言わせよう。その事業報告書には、番組誘導、取材誘導と書いてありました。電通が誘導することによって、「危険」の記事が減りポジティブな記事が増加したのです。
そして電通の動きが早すぎるとマコさんは指摘しました。一番初めに電通が動いたのが2011年3月15日。福島のラジオの広報番組に山下俊一氏(長崎大学・当時)と高村昇氏(長崎大学・当時)、原子力保安院(当時)の金城氏の3人を配しました。「原発事故が起こったら自動的に電通がこういうプログラムを始めるという風に決まっていたとしか思えない」と。

長く続けるコツ

30~40年前のドイツは今の日本と同じで、原子力は必要とか自然エネルギーは高すぎる、エネルギーの話は国任せという人が多かったそうです。自然エネルギーの会社(注)を市民の力で立ちあげたスラーレクさんに闘いを継続する方法を聞いたところ、「パーティを開くこと」と答えが返ってきました。負けることが多いけれど、小さな勝利をみんなでお祝いする。その次の年も、また次の年もお祝いをする。それをずっと続けていくと少しずつパーティが増えていく。何度も仲間と集まってパーティを開いてお祝いするというのが、ずーっと続けるコツなのだと。
脱原発を全部達成していなかったころ、ドイツの市民団体の人が目指していたものは、脱原発の年月を少しでも前倒しすること、これから大量に出てくる放射性廃棄物がきちんと処理されるように監視すること、他の国の原発を止めることです。
市民運動に押されて、2016年、ベルギーのティアンジュ原発とドール原発の即時停止をドイツ政府がベルギー政府に申し入れました。19年にもスイスのベツナウ原発の即時停止をドイツ政府がスイス政府に申し入れました。   

市民運動のすごさ

市民運動のすごさを物語るエピソードを一つ。ドイツ連邦放射線防護庁の広報課を取材したときのこと。
マコさんが「放射性廃棄物を運ぶトラックとか列車とかの外観が全部オープンになっていて、すごいですねえ。日本では、テロ対策って言って輸送ルートとか絶対オープンにしないです」と言うと、推進側の広報官が「そうか、日本はテロ対策で情報を出さないのか。うちも輸送ルートは出さない。でもそれはテロ対策ではない、市民団体対策だ。テロリストはひょっとしたら来るかもしれないが、ドイツの市民団体は100%来る」と言ったそうです。
ドイツの脱原発は、メルケルが決めたわけでもなく政治家が決めたわけでもなく市民の力で成し遂げたということが良く分かるお話でした。(池内潤子)
(注)南ドイツのシェーナウで、チェルノブイリ事故を受け、立ち上がった親たちが、電力の地域独占体制を打ち破って作ったドイツで初めての自然エネルギーの会社