稲村候補の街頭集会

兵庫県知事選挙(11月17日、投開票)は、これまでにない選挙となり、残念な結果だった。しかし、11月20日に「折田楓SNSメモ」が発信されさらに新たな状況がわかり、動き始めた。
再選された斉藤元彦知事は、公職選挙法違反する、あるいは贈収賄事件をも疑われる「崖っぷち」状態にある。しかし、仮に斉藤知事が再度失職しても、知事選には「次点」という扱いがないため、18億円もかかる再選挙をやることになる。斉藤候補に投じられた111万票は、どれくらい動くのか、あるいは稲村候補に投票された97万票は拡大するのか。斉藤元彦が公選法違反に問われた場合も、再失職・公民権停止になったとしても、代わりの候補が出てくるだろうから、どこまでも事態は深刻である。しっかりと現状を見つめ、再び苦杯を喫することがないよう真剣に考え、準備する必要がある。

県知事選に至るまでの政治情勢
・2024年は、自民党の「裏金・キックバック問題」が年を越し、そこに能登震災、大阪万博破産など自公政権のマイナスのみならず、別働隊としての維新に対する支持も低下し、社会全体に不満が充満しつつあった。
・島根ショック:衆院補欠選挙において自公推薦候補が落選。立憲推薦候補が当選。「岩盤保守」といわれる長年の自民党支持層が崩れ始めた。
・7月都知事選:小池候補が再選した。より注目されたのは「石丸旋風」だった。
・10月衆院選:自公の過半数割れ、維新後退、比例票では立憲は若干増も伸びず、それぞれ43、9議席とはいえ国民民主と「れいわ」が増やした。
総じて「裏金・キックバック」問題に象徴される、自公政権に対する市民、庶民の怒りが噴出したのだが、特に20代、30代の生活困難の世代の不安や不満が「石丸現象」や「 国民民主とれいわの躍進」に結果していると考えられる。(投票出口調査などによる)

「全会一致の不信任決議」の意味
ここで、9月に全会一致で採択された県知事不信任決議について、もう一度考えてみる。
本来、手続きとしては百条委員会で「公益通報問題」をめぐって、斉藤知事とその側近たちの加害責任が認定された上で、それにふまえて不信任をつきつけるのが手続き上は正しかった。
しかし、当時の県民的な世論は斉藤知事批判に大きく傾いており、間近に迫った衆議院選挙対策としても、維新も含めた全政党が「反斉藤知事」のポーズを取る必要に追い込まれた。そういう「不信任案」の内実は、弱点をかかえていた。
特に、百条委員会が「公益通報問題」の真実を明らかにするために設置されたにもかかわらず、知事選が実際に始まると「立花らの乱入」にも影響され、世論、論点が「元県民局長の自死の原因が斉藤知事にあると思うのか」あるいは「本人の個人的事情が原因なのか。(つまり斉藤知事に責任はない)?」の方向にずれ込んでいったことは、くわしい検討が必要と考える。

稲村陣営の急失速
稲村候補側には、「知事は失職」「基礎票(組織票)がある程度あるから、かなり有利」などの油断があっただろうし、それは全体的な雰囲気でもあった。
しかし、「稲村支持」を表明したとはいえ、そもそもそれら政党も県知事選直前まで衆議院選挙でお互いにはげしく争っていた。県知事選告示日の時点で、そのエネルギーと集中性は最低レベルに落ちていたと考えられる。
公示日に、稲村候補のポスターがスムーズに貼られ、斉藤ポスターは2日遅れの印象。ここまでは選対本部が機能しているように見えた。
しかし、立花の「2馬力演説」とデマ拡散、特に選挙期間中に行われた百条委員会における片山元副知事発言と一体となった、「不倫キャンペーン」のなか、日頃マスコミ不審抱いている層の風向きが変わり、拡散するSNS、動画も、選挙の流れを変えた。
稲村陣営は、そもそも県知事選挙レベルのSNS体制がとれておらず、やっとつくったアカウントも即座にアンチ勢力による1000件といわれる「通報」で凍結・使用不可となるなど、後手に回った。
これら「イメージ戦略」が後手に回るなか、背広を着た(既成の側)立憲民主の国会議員が街頭演説に立ち、22市町首長が(おそらくは選対本部との調整なしに)記者会見を行い、「机をたたく切り抜き動画」が立花陣営にアップされ、300万回も再生されてしまうなど、「既得権益集団がバックにいる稲村候補」という宣伝に、塩を送る結果となった。
選挙初期は、明石・淡路の西村地盤(県南西部)では斉藤支持が突出していた。そこに、稲村支持を一度は表明した部分から、風向きを見た保守勢力(既得権勢力)が斉藤に寝返るものも多かったと思われる。
維新・清水候補は25万票(前回、斉藤85万票)であり、維新票はかなりの部分が斉藤に動いたと考えられる。その意味では、斉藤111万票の主力を「SNS票」とみるのは、正しくないと考える。斉藤票は、いわば「既得権益票に反既得権益票がつみ重なった結果」という、かなり不安定な構成になっている。ここに正しく切り込めるだろうか。
*知事選、2021年と2024年の対比
21年 斎藤元彦 858,782票 金澤和夫 600,728票
24年 斉藤元彦 1113,911票 稲村和美 976,637票
これを見れば、例えば稲村候補の再擁立の可能性もあると思われる。次に向かうには、いくつか改善する必要がある。
・選対本部を充実させる。イメージとしては、(女性を中心にした)新しい市民ボランティアが次々と、一緒に宣伝マイクをもって語りかけるような選挙。そのような、新しい運動でないと「斉藤支持者」をひきつけられない。シングルマザー支援のNPО(ジェンダー運動と同時に、反貧困運動など)の支援を得られるかどうか。
・さらに青年。母子家庭支援の地域活動から選挙の中心スタッフで頑張った青年がいるのだから、そういう人たちにもっとSNSなども含め発信してもらいたい。
・「弱者救済」は重要だが、中小零細の経営者(あるいは管理職)層を引きつけるような経済政策が必要。「弱者救済」のスローガンを聞くと、彼らはすぐに「生活保護」を連想し、反発する場合が多い。介護の部門などでいえば、「訪問介護事業所の経営実態調査」を行い、必要な事業補助を行うなど、「崖っぷちの経営者」たちにも届くような政策を、これまでの経験からも積み上げていく。
・今回の選挙では「ジジイ(ママ)たちにあやつられた女性候補」という根も葉もないデマゴギーがかなり広がった。尼崎市長時代の実績なども、もっと押し出してもよかった。
*神戸学院大学の上脇教授は、「公選法違反問題についてコメント」を開始している。「裏金・キックバック」問題から、斉藤知事の不正選挙までを一つながりにするような「理論と行動」を起こし、困窮する若い世代とつながり兵庫における新たなスタート、展望を開きたい。(11月28日、淀川一博)