3月14日夜、日本郵政グループと日本郵政グループ労働組合(JP労組)が妥結した内容は以下のとおり。
メディアは昨年に続いて「民営化後最高」と報道している。昨年、ベースアップ4,800円だったところ、ベースアップ5,100円(1.7%)で昨年を上回り民営化後最高とのこと。2007年の民営化以降、ほとんど賃上げしていないのだから、わずかでも「最高」となるだけのこと。全く物価高に見合っていない。正社員に5,100円と言っても、正社員全員にいきわたるのは2,800円だけ。そして非正規のうち時給制契約社員には今回もゼロ回答。月給制契約社員にはベア5,100円。これに加えて、正規非正規問わずフルタイム雇用の全社員に特別一時金15,000円(雇用時間に応じて減額)。以上が主だった内容である。
JP労組は、正社員には定期昇給(2.0%)とベアと特別一時金を足して計4%相当の賃上げとなったとのことで、「会社が判断できる最大限の回答であるとの判断から、24春闘交渉の到達点として妥結・整理した」と言っている(添付写真「JP労組労組春闘ニュース№4」参照)。
すでにレポートした通り、24春闘におけるJP労組の賃上げ要求は正社員および月給制契約社員に10,000円、時給制契約社員には時給アップ70円であったが、そこにさえ程遠い回答を「最大限の回答」と持ち上げあっさり妥結したのだ。ストライキを構えない団交は団交たり得ないが、それ以前的な出来(でき)レースだったのかもしれない。本当に許されない。

全国で春闘スト 郵政ユニオン 定昇見直しも示唆

一方、郵政産業労働者ユニオン(郵政ユニオン)は低額回答に抗議し、3月15日、ストライキを決行した。「物価高騰に見合わない超低額ベア・非正規ベアゼロ回答に抗議し、全国17郵便局、ゆうちょ銀行3職場で3月15日ストライキに58名が突入」と同組合ホームページが伝えている。多数を組織するJP労組がすでに妥結している中、状況は変わらないとしても、ストライキに立ち上がったことが労働組合のあるべき姿を示し、職場でも共感を得ていた。
今春闘における会社回答の中には、また重大な問題がある。定期昇給を今回は実施するとした上で、定昇の廃止含めた見直しが提案された。「労働市場も大きく変化しはじめている中で、新卒一括採用、終身雇用、年功賃金といったこれまでどおりの雇用体系・賃金体系でよいのか検討が必要であると考えており、特に定期昇給のあり方については、廃止も含めた見直しについて、今後、労使で議論していくこととしたい」とする会社提案に、JP労組が具体的に何と答えたのか今のところわからない。JP労組としては、正社員間(一般職と地域基幹職)の格差を問題視しているかのような職種統合を、会社と一体的に検討しており、それとの関連で打ち出されているように見える。
前回レポートで批判したように、料金値上げに関するJP労組の意見書の中で、新一般職という低待遇の正社員を生み出す「経営努力」を会社と一体となってやったと自慢していたし、またこのところの正社員の待遇引下げによる偽りの均等待遇に抵抗らしい抵抗もしてこなかったJP労組なら、次は定昇廃止やむなしと判断していてもおかしくない。しかしそんなことは到底認められない。今後、この問題も焦点化させなければならない。
さらに、回答には「転勤に伴う転居費用を定額支給から実費支給へ見直し」というのもある。一見、プラスをもたらす内容ではあるが…。実際は転居を伴う異動など一般的ではないから、多くの正社員にとってあまり関係ない見直しでしかない。それよりも住居手当廃止に向かう動きと関連あるかもしれないと危惧を覚える。JP労組が昨秋、24春闘討議資料で住居手当についても検討するような内容をすでに打ち出していたということもある。
そもそもは労契法20条裁判への対応として2018年に一般職の住居手当は不当に廃止された(10年かけて完全廃止)。その後、同裁判で正社員に与えられている住居手当が非正規(期間雇用社員)に与えられないのは違法と確定したが、郵政はそれを見越して正社員のうち一般職の住居手当を廃止し、それで均等とした。その際の理屈としては、住居手当とはそもそも転居を伴う異動がある社員に対する手当であり、一般職は転居を伴う異動がないから付与の必要なし、廃止する、というものだった。 
しかし住居手当は転居のための手当だっただろうか。誰もが家賃などへの援助のための手当であると思っていたはずである。それなのに転居費用への援助費だとねじ曲げ、一般職の住居手当を廃止し、非正規にも新設の必要なしとされたのだ。そんな経緯があったことから、この転居費用の実費支給への見直しが、一般職と地域基幹職の職種統合ということの中で、住居手当をなくすという低位平準化の動きに見えてしまう。今後の動きを注視する必要がある。

「要員不足」には賃上げこそ

JP労組が労働力の確保の一つとして求めていた「グループ間における柔軟な要員配置の実現」などは会社ももちろん前向きの姿勢である。しかし労働者が求める要員不足の解消はこんな方向ではない。本来、要求のメインである賃上げを何としても実現させることこそ労働力の確保につながるのであり、労働者を都合よく配転させることを組合が求めること自体許し難いことなのだ。
一時金についての回答は、すでに以前からグループ内各社一律ではなく業績に応じて各社判断とされてきたが、今回初めて不当にも実際に判断が分かれた。ゆうちょ銀行のみ年間4.4か月とし、日本郵便など他の3社は年間4.3か月との回答だった。しかし、一時金も賃金の一部であり、それだけ別に差をつけるのは認められない。この点もJP労組が全く問題視しないことは許し難い。ゆうちょの労働者とその他の労働者の働きや生活に違いはない。それに窓口で貯金の業務をこなしている日本郵便の労働者は幾らでもいる。利用する方からしても同じ郵便局の窓口を通じて郵便も貯金も利用しているのだから一体的で一律である必要がある。

「人減らしビジョン」は認められない

特別一時金15,000円は、昨年の7万円ほどではないにしてもプラスはプラスであるが、理由が認め難い。「JPビジョン2025 見直しによる新たな成長戦略への積極的取組への期待等を考慮した対応として、今年度限りの措置」だと言う。JPビジョン2025とは25年までの中期経営計画であり、当初、5年で35,000人削減するといった内容で打ち出された合理化計画である。多くの郵政労働者が要員不足でしんどいと言っているにもかかわらず、もっと人を減らせという計画=JPビジョン2025なるものを労働者が積極的に推進することへの期待から支給するというものを、有り難がるわけにはいかない。(2024年3月20日)