
7月10日、泉南市議の添田詩織氏にネット上で個人情報をさらされ、添田氏のフォロワーから差別言動を受けた在日3世の李香代(リ・ヒャンデ)さんが、添田氏に損害賠償と投稿の削除を求めた裁判が大阪地裁で開かれた。今回9回目にしてやっと公開法廷になった。私は傍聴に入れなかったので報告集会に参加した。
添田市議の差別意識は明らか
報告会で弁護士は、添田氏の発信が、在日コリアンに対する差別意識に基づくものである事を明らかにした。添田氏は、原告の李香代さんが役員を務めるイベント会社THJ(トライハードジャパン)が泉南市のイベントを請け負うと、THJの代表がかつて中国籍だったことを取り上げて、「中国共産党がバック」などと事実無根のことをネット上で書き立てた。
また、李さんが朝鮮中高級学校のオモニ会会長として大阪府庁前の火曜日行動で活動していたときの写真や、李さんのいとこの李哲(イ・チョル)さんが、韓国政治犯スパイ事件で死刑判決を受けたことを取り上げて、「朝鮮総連と関係ある人物に、泉南市の公金を任せていいのか」とあおり立てた。李哲さんは再審で無罪が確定し、当時の韓国大統領から謝罪を受けている。
添田氏は「情報源はネットのまとめサイトから得たもので、差別意識はない」と言い張っているが、その手法は政治家が、自分のフォロワーなど特定の有権者に向けて差別的メッセージを発信し、差別を扇動する典型的な「犬笛型ヘイト」である。
この日の裁判を踏まえて、普通なら次回に最終弁論が行われるはずだが、裁判官はいきなり結審して、次回判決を言い渡すと言ってきた。原告・被告の双方が最終準備書面を出したいというと、「出したいならどうぞ、読みますから」と言う態度だ。しかし、被告の添田氏側が「修正することがある」と主張したので、裁判官も「李さん側に反論の機会を与えなければならないようであれば弁論を再開します」と答えた。
この裁判官は一貫して、密室で裁判を進めようとしていた。今回、原告・被告の双方が顔を合わせる公開法廷なのに、裁判官からの質問もない。形式的に公開にしたが、裁判官の中では、最初から結論を出しているのではないかと思われる。
政治家のヘイトに明確にNOを
李香代さんは「役員は何人もいるのに、在日コリアンの私だけ標的にされ、恐怖に震えた」「他人が勝手に個人のプライバシーを(ネットに)上げられるこの世の中に警鐘を鳴らしたいし、そういう危険な世の中にかわいい子供たち孫たちを、送り込みたくない。自分のプライバシーを公開しなければならなかったが、いろんなことを正しく伝えたい。添田氏はインターネットのまとめサイトで調べたというが、朝鮮学校や高校無償化裁判についてきっちりと調べてほしい。李哲に対して彼女が『韓国に死刑判決が認定された』といったときは、思わず机をたたいてしまった。無罪を勝ち取るまで40年かかった。ネットに出ている一部の文字だけを取り出して、『自分には何も問題ない』というような浅い人が政治家やっていていいのか」「被告の言動はあいまいな言葉を使いながら、繰り返し在日コリアンをおとしめる内容であり、それ自体が明確なヘイトだ。あからさまな暴言でなくても、差別意識に基づいた発信が積み重なることで人々の偏見を助長し、排除の空気を正当化する。政治家がそのような発言をすることを看過できない。社会として明確にNOを突きつけなければならないと思う」ときっぱりと語った。
最後に、NHKの朝ドラ『虎に翼』の中のセリフ「おかしいことに声を上げたらその声は消えない。その声がいつか誰かの生きる力になる日が来る」を引用したジャーナリストの安田菜津紀のメッセージと、神奈川でヘイト裁判を闘った崔江似子(チェ・カンイジャ)さんのメッセージが紹介された。(佐野裕子)
