尼崎のパナソニック工場や亀山のシャープ工場の撤退は、地方自治体からばく大な支援金をもらいながら、わずか10年近くで撤退・海外移転し、深刻な失業問題や関連事業所の倒産など、地域に大きな損失をあたえた。
また、阪神淡路大震災や東北大震災の復興の在り方は、“ショックドクトリン(惨事便乗型資本主義)”の手法に近く、「平成の大合併」の大失敗やコロナパンデミックの時のPCR検査ができなかった事情等を丁寧に総括し、長野県栄村や岩手県などの貴重な先進的実践例を実にたくさん紹介している。

地域住民の生活向上優先の政策を
◇著者は、大企業の短期的利害を第一にした地域開発ではなく、地域住民の生活向上を最優先した政策が必要、かつ可能であることを日本、世界の様々な事例を紹介し、地域内再投資力の必要性を訴える。その政策の方向性を決定づける住民自治の重要性を、さまざまな取り組みを通して提示する。400ページ近い分量だが非常に平易な記述であり、興味深い各地の紹介は読む者に希望と様々な気づきを授けてくれる。
一つの例としてアメリカの社会運動で、地方自治体や州・連邦政府の行財政権限を活用した、資本の無政府的活動を社会的にコントロールする仕組みが様々作られている例をあげ、①企業が勝手に工場閉鎖することを事前にチェックする工場閉鎖規制法や、②進出企業に対して地域内からの原材料調達を義務づけるローカル・コンテンツ法、③金融機関に地域内での投融資や、地域貢献を誘導する地域再投資法を紹介する。

生活の質を向上させる共同運動
また、職場の中での賃上げ・労働条件改善運動だけでは格差と貧困に打ち勝てない、地方自治体や国の教育、医療、福祉、住宅、街づくり等の公共サービスに関し、労働者や中小経営者の生活の質が向上するような共同の運動を「コアリッション」(協力の枠組み)作って広げていく新しい運動(「地域力をつける労働運動」)等を紹介する。日本でも、中小企業と労働組合が連携して最低賃金引上げや公契約条例を求める運動も始まっている。
◇『共産主義運動年史』第23号(2024年)所収の奥村論文、「誰が維新を支持しているのか?左からの現状打破のビジョンは?」の参考文献に挙げられていた。また『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』(ジョセフ・E・ステグリッツ、徳間書店)も挙げている。アメリカではノーベル経済賞を受賞する経済学者がグローバル資本主義を批判し、“経済ルールの大転換”を訴える本がベストセラーとなっている。驚いてしまう。
日本のリベラル、社会民主主義政党の没落に比し、ニューヨーク市長やシアトル市長に民主社会主義者が当選し、ロンドン市長に労働党書記長が当選するなど、この違いは何なのか。頭を抱えてしまう。確かに、日本の左翼は「市場経済の廃絶や批判」は語っても“(対抗)経済ビジョン”は、あまりに語らない。その弊害なのだろうか…。(啓)