10年にわたって労働争議が続いている社会医療法人山紀会(大阪市西成区)の「争議報告会」が大阪市内で行われた(11月21日)。山紀会では2013年の組合結成直後から組合潰しが続いていた。20年4月、コロナ禍の厳しい介護現場を守るために、組合側が争議休戦を申し入れたが経営側はそれを拒否。組合がそのことを地域の医師会に訴えたことが「名誉毀損」に当たるとして、経営側は同年6月、330万円の損害賠償訴訟を起こしていた。
「経営側の損賠訴訟は不当労働行為」として組合側は労働委員会に救済を申し立てた。2年間の闘いで22年2月に、「損害賠償訴訟が不当労働行為である」とする救済命令が出た。ところが経営側は「救済命令の取消し」の訴訟を起こし、これに組合側も反訴した。裁判における山紀会の理事らの証言がデタラメで、23年5月11日、裁判所は経営にたいして損賠訴訟の取下げを促し、それが決定した。これにより、「組合への損賠訴訟は不当労働行為」とする認定が確定した。
報告会では、当該労組のケアワーカーズユニオン山紀会支部、弁護団、地域の支援や労組の仲間が集まり、勝利の意義を確認し、当該の苦労をねぎらった。昨今、労働争議や市民運動に対して経営や行政が反対訴訟(損害賠償など)で運動潰しを狙うスラップ訴訟が相次いでいた。この動きに風穴を開ける勝利だ。
山紀会争議の概略説明のあと、山紀会支部弁護団である在間秀和弁護士、藤原航(わたる)弁護士、網本智晃弁護士、田中萌奈美弁護士から、「使用者側のスラップ訴訟に対する労働組合側の対応」や「支配介入としてのスラップ訴訟―山紀会事件・大阪府労委命令の意義」などについて発言があった。在間弁護士は、「スラップ訴訟が不当労働行為であるとする命令は初めて。判例もなく、非常に画期的な勝利であり、労働組合だからこそ勝ち取れたもの」と労働組合と労働法の可能性を強調した。
山紀会の闘いは、現場の介護への責任感と不屈の闘い、労働法を駆使した労働委員会での粘り強い闘争、その実行を目指す地域の団体行動・直接行動の力が示された。当該の労働者たちは明るい表情で、「現場だけでは到底闘うことはできなかった。支援に感謝」と述べ、「今も争議は続いているが、介護・医療現場として介護の質を下げずに、これからも頑張る」と述べた。労働運動の可能性を示したと思う。(森川数馬)
【参考資料】『労働法律旬報№2042 2023年10月下旬号「特集・スラップ訴訟に対抗する―山紀会事件大阪府労委命令を素材に」』