「スフィアハンドブック:人道憲章と人道支援における最低基準2018」日本語版

台湾の避難所に驚く

前回に続き、避難所について。4月3日におきた台湾東部の地震。震源地近い花蓮(かれん)市では発災3時間後に避難所が設置された。体育館の内外に個室型のテントが並び、食堂と温かい食事、トイレ・シャワー、ジェンダーや障害などに配慮したスペース、子どもの遊び場もあった。
避難所は4日後には閉鎖され、被災者は寺院やホテルなどの個室のある施設へ移動した。「避難所は長く生活する場所ではない」からだ。台湾現地からの報道は「日本とあまりに違う」と大きな注目を集め、「♯台湾地震」というワードがトレンド入りした。能登では、発災から4カ月がたってもなお5000人近くが避難所できびしい生活を強いられている。
台湾は日本と同じように、地震や台風による大災害に何度も見舞われてきた。そこでの大きな犠牲を教訓とし、2010年代から政府、地方行政とボランティア団体、宗教組織、企業が連携して防災計画を練り上げ、普段の訓練も積み重ねていたという。それが花蓮市の避難所だった。

イタリアのTKB48

イタリアも地震大国だ。90年代、中央省庁として市民防災局がおかれ、発災と同時に州へ指令が出され、48時間以内に「パッケージ」が避難所に届けられることになっている。その中身はTKB(トイレ、キッチン、ベッド)+テントや生活物資で、費用は公費から出すが備蓄の管理・維持は自治体と連携したボランティア団体が受け持ち、発災と同時に各組織が役割に応じて避難所運営にあたる。その日のうちに避難所にはキッチンカーが到着、あたたかいスープやパスタがプロの料理人の手で避難者に提供される―という話は、日本でも数年前から「羨望」をもって多少知られている。
日本と違い大事な点は、国の指令は被災した自治体へではなく、被災を免れた近隣の自治体に出されることにある。自身が被災者である地元職員に責任を負わせるのは人権侵害、パワハラにあたるとされている。被災自治体の職員が家にも帰れず避難所運営にあたることが美談とされる日本はよほどおかしいと思わねばならない。

「スフィア基準」避難者の人間としての権利

災害対策法には「国民の生命・財産を守るため、自治体を支援することは国の責務」と明記されている。まず国が、全国の避難所の生活環境が最低限の国際基準レベル(スフィア基準)に到達するよう動くべきだと専門家、現場から多くの声が上がっている。
スフィア基準とは正式には「人道憲章と人道支援の最低基準」といい、非政府組織(NGO)グループ、国際赤十字社、赤新月運動によって「難民、災害や戦争被災者の権利を守るため、人道援助の質を向上させる」ことを目的に提唱され、98年「スフィアハンドブック」として出版された。その後の世界各国の知見を加えて改訂を重ね、18年の最新刊は400頁にもなる。
スフィア基準の原理は、①災害や紛争の影響を受けた人びとには、尊厳ある生活を営む権利があり、支援を受ける権利がある。②災害や紛争による苦痛を軽減するために、実行可能なあらゆる手段が尽くされなくてはならない、という2つである。
これに基づき基本的な理念と技術的なことが書かれた章で構成される。避難所の項目でのジェンダー関連では「一時的な集合宿泊施設が使用される場合、性的搾取や性的暴力が起こらないように特別に対策を講じる必要がある」「トイレ数は女性が男性の3倍」など指針、チェック項目もある。
誰もが被災者に、または支援側になる可能性がある今、序文にある「実践的なガイダンスと世界中の先例と根拠を示すことで、どこで支援に携わろうとも役立つ」このブックを、「関心のあるところから」開けてみてはどうだろうか。「スフィアハンドブック」で検索できる。  (新田蕗子)