宝島社本社(東京都千代田区)

宝島社が発行した差別本の絶版と謝罪を求めた裁判の控訴審判決が5月15日、大阪高裁であった。裁判長は、原告の訴えを退けた一審判決を支持し、控訴を棄却した。判決言い渡し後も原告の村上薫さんと支援者らは法廷にとどまり、「不当判決弾劾!」「宝島社のヘイト本を許さないぞ!」とシュプレヒコールを繰り返した。原告側は直ちに最高裁に上告する意思を表明した。
裁判で絶版を求めた宝島社の『大阪ミナミの貧困女子』(2021年2月刊)には、「コロナ禍で値崩れした女性を買って応援しよう」「高嶺の花が驚きの店で会える」といった差別的な内容が記載されていた。夜業で働く女性たちの生活と権利を守るために活動していた村上さんにとって、このような差別本の「著者」として名前を利用されたことは断じて許せないことであった。
1月に行われた控訴審の証人尋問では、当時、村上さんが宝島社に対して再三、文章の変更を求め、変更が受け入れられないのであれば「著者名」から自分の名前を外すよう求めていたこと、対して宝島社側は「著者名を変更したら出版できなくなる。そうなったら1000万円の損害賠償を請求することになる」と脅迫していたことなどが明らかになった。ところが判決は、村上さんと宝島社とのラインのやりとりのなかにあった、村上さんの「これで終了です」というたった一つのメッセージだけを取り上げて、〝原告は出版に同意していた〟とした。また「1000万円の損害賠償」については、「事の重大さを説明するものだった」として脅迫を認めなかった。こうした一連の判断は、法廷の証言で明らかになった事実関係を無視したもの。そこには女性の権利よりも大手出版社の利害を重視する裁判官の姿勢が浮かび上がる。
また本の帯につけられた「カラダを売るしかない女性たちの物語」というコピーによって、村上さんの名誉が毀損されたという訴えについては、「(原告の)感情は害されたとしても、一般的な読者の感覚を基準にすると名誉毀損には当らない」とした。判決後の報告会で仲岡しゅん弁護士は、「一般的な読者とは誰のことなのか。それこそ裁判官の主観ではないのか」と裁判所の判断を批判。「判決は残念な結果だったが、証人尋問で宝島社側に非があることは誰の目にも明らかになった。私たちはすでに勝っていると思う」と上告審への意欲を語った。
原告の村上さんは、「この3年間、皆さんとともに闘ってこられて本当に良かった。裁判を始めたときは、3年間も闘い続けられるとは誰も思わなかっただろう。しかし、裁判を重ねるたびに傍聴者や支援者が増えていった。今日、大法廷がこんなにたくさんの方であふれたことを嬉しく思う。宝島社裁判の盛り上がりはみんなの力で勝ちとったもの。今回は不当判決だったが、私は上告し、最後の最後まで闘う」と決意を述べた。(葉月碧)