PFAS(ピーファス)とは…。「聞いたことがある」という程度だった。「有機フッ素化合物PFAS問題を考える」という学習会で木村―黒田純子さん(環境脳神経科学情報センター副代表)の話を聞いた。

あらゆる生活用品に

私たちの生活や環境の、あらゆるものに使われていることに驚いた。私が子どものころの田舎では、味噌や醤油などは祖母の手づくりだった。もちろん「自然派」だったからではない。畑で採れたものを食べ、なるべくお金を使わないという暮らしだったからだ。その醤油は、しばらくすると表面にびっしり白くカビが覆い、カビを除けながら使っていた。市販の醤油は防腐剤が入っているのか、梅雨どきでもまったくカビが湧かなかった。青カビも毒性物質を含むらしいから、どちらがいいか分からないのだが…。
PFASとは何か。学習会資料によると「有機フッ素化合物、化学的に最も強い炭素―フッ素結合を持つ人工化合物」の総称。うちPFОS(パーフルオロオクタンスルホン酸)、PFОA(パーフルオロオクタン酸)の2物質が、最も多く使用される。
PFASには水と油をはじくなどの特性があり「便利」なため、焦げ付きを防ぐフライパンのフッ素樹脂加工など、あらゆる生活用品に使われている。ファストフードで使われる油をはじく包装用紙、洋服やカーペットなどの防水防汚処理、歯ブラシや歯間ブラシ、ファンデーションなどの化粧品、スマホ画面のコーティングなど。これらから成分が溶出する。

第二のダイオキシン

PFASは第二のダイオキシン問題と言われている。人体には甲状腺や性ホルモンへの影響、発がん性、免疫力の低下、肝臓への毒性、血中コレステロールの上昇、胎児の発育遅延などが報告されている。摂取や使用頻度が高い人はPFASの血中濃度の上昇がみられるという。
PFOSとPFOAについては「残留性有機汚染物質ストックホルム条約」で製造・使用・輸出入が禁止・制限され、他の物質に代替が進んでいる。これらはいずれも「予想以上」に毒性が高く、難分解性であると分かってきた。世界では禁止・制限されたPFASの残留と代替物質による人体や環境への汚染も進行している。
環境への影響が大きいのは、空港、石油コンビナート、基地などで多用される泡消火剤、半導体製造や金属加工、研磨剤、表面処理剤などだ。PFASの流出は、長期にわたって土壌や河川、地下水を汚染する。沖縄の市民グループの調査で米軍基地から流出したPFASによる環境汚染が報告され、対策を求める活動も始まっている。
環境省は「全国16都府県の河川や地下水など111地点で暫定指針値(1リットル当たり50ナノグラム)を超えている。飲用に使わないよう」と発表した(3月)。京都、大阪、兵庫(明石川上流、神戸市内地下水3地点ほか)、奈良でも指針値を超えた。最も高かったのは、大阪府摂津市(2万1千ナノグラム)。
いったん汚染されると化学的に安定し、分解されにくいPFAS対策は、容易ではない。便利さと成長経済、戦争にすら慣らされてしまった、ここ半世紀…。核・原発による放射能汚染、拡散とともに、現代の科学・化学社会の問い直しが求められている。(俊)