
昨年10月に「2025年版、自殺対策白書」が閣議決定された。毎年、出されているらしい。自殺者数は、若年女性が増加傾向にある。亡くなった20代の4割に未遂歴があった。大学生では、男女ともに21歳で亡くなるケースが多く、就職や進学への悩みが背景にあるとみられている。厚生労働省は「きめ細かい支援が必要だ」としているが、どうきめ細かい支援なのか、具体的に見えてこない。
厚労省によると、24年の自殺者数は2万320人(前年比1517人減)。男性は3年ぶり、女性は2年連続で減少した。しかし、小中高生は529人と過去最多だった。15〜29歳の自殺者数は、20年以降は3千人を超え高止まり傾向にある。15〜19歳では、15年には男性が女性より2倍以上多かったが、昨年は女性が上回ったという。
「進路に悩む」大学生
15年以降に死亡した大学生の年齢別の分析では、男性は多くの年で21歳が最多となり、女性は21年以降で21歳が多かった。22〜24年の原因・動機分析では、いずれも進路に関する悩みを抱え、男性は学業不振も多かった。女性はうつ病や精神疾患など病気の悩みを抱えていたという。
担当大臣は、「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指し、対策を進めていく」と回答をしているが、これも具体的には見えてこない。いわゆる「自己責任」ということで切り捨てるのか。
また、G7各国と世界保健機構のデータと対象化すると、7カ国の中で最も高かった。男女別にみると、男性はアメリカ(10万人当たり23.9)が最も高く、日本(22.6)は2番目。女性は日本(10.8)が最も高かったとある。

「小中高生の自殺者数 過去最多523人」(朝日新聞1月30日)
朝日新聞によると10歳代および20歳代の自殺者数は、コロナ禍に入った2020年に急増し高止まりしたままだ。特に女子中高校生で増加傾向が目立ち、19年の確定値と25年の暫定値と比べると、中学生で2.0倍、高校生で2.2倍になっている。19歳までの原因・動機をみると、「病気の悩み・影響(うつ病)」が最多の126件、「病気の悩み・影響(その他の精神疾患)」「学業不振」「親子関係の不和」と続く。とんでもないことに、厚労省が発表した主要7カ国(G7)各国のうち、10代と20代の死因の1位が、ともに自殺なのは日本のみだ。
兵庫県知事の県政私物化
兵庫県の斎藤元彦知事のパワハラや、県政私物化を告発した県議が自死した。彼は問題解明のための「百条委員会」の委員の一人だった。知事を告発した元県民局長の死に続くものである。そもそもの問題は、元県民局長の告発文書を「公益通報」として扱わず公益通報者を守りきらずに、「公益通報者保護法」が禁ずる告発者探しを行ない、懲戒処分まで行なった違法な、暴力的な対応にこそ原因がある。それにいく重にも輪をかける根拠のないデマが拡散された。住居まで押しかけ大声でデマを喚く、SNSによる顔の見えない「集団リンチ」が繰り返された。
人を傷つける言論の自由など存在しない。当たり前ではないか。自由をはき違え、誹謗中傷が放置されれば、公権力による言論規制すら招きかねない。事実、今その時代が到来している。
「略奪による蓄積活動」
かつてない不況と物価高、今なお新型コロナの流行後の「雇い止め」なども続いている。非正規と派遣切り、社会の閉塞感など自殺の背景には諸説あるという。しかし、他にもっと基本的な事柄があるように思われる。「生きることが報われない」という時代。世の中、曖昧で、かつ具体的な感覚をつくることすらできない、顔の見えないフエィクが、そのものが社会に蔓のようにはびこり、拡がっているのではないか。
働けば給料は上がり、結婚し家庭をつくり、電化製品を手に入れ、借家は持ち家に変わり、海外旅行に行ける。仕事をリタイアした後は、相応の年金を受け取り、一応は満足なまま死の床につくこともできた、かつての「1億総中流」の時代は完全に過ぎ去った。
今、生産と消費は、全く無縁な蓄積活動「略奪による蓄積活動」を発達させている。都市の高級化、土地争奪、年金負担義務の放棄、企業と富裕層に向けた優遇税制、そして「働け、働け、働け」の賃金奴隷の強制である。格差は生まれ、安定的労働者は「不幸を押しつける側」に回っている。不安定で生産性の低い低賃金の雇用形態は、ますます貧しい労働者を生み出している。
最低賃金の低さは、ОECD(経済協力開発機構)諸国の平均の3分の2にも満たない事実がある。高市政権の「責任ある積極財政」に浮かれ空騒ぎしても、この国の平均的な生活者は、気がつけば既にとっくに豊かではなくなり、アンダークラスがますます膨らみつつある。
目の前にある格差、貧困、差別
自殺者数は女性と若年層で膨らんでいる。自殺者の増加分は女性であるという点を見過ごすことができない。若者にうつ病の可能性も増えているらしい。人々の心が疲弊し、たわみながら傷つけ合い、複雑にゆがみ絡み合い、さらにゆがんでいく。「生きることが報われない」今、論議の必要なことは、生きることの甲斐のなさ、空虚感についてではないか。テレビでは、朝から世の中を一つにしたような、空疎な笑いが聞こえてくる。
目の前に格差や貧困、差別が歴然と、さらには公然と「日本人ファースト」などと訴える政党まで登場しているのに、私たちは「見ない」ようにしているのか。「感じようとしない」のか、どうなのか。(嘉直) (つづく) *折れ線グラフは、厚生労働省の資料から。
