政府は4月13日、福島第一原発の放射能汚染水の海洋放出を決定した。国会審議もなく、新型コロナ感染拡大のドサクサにまぎれて、「廃炉・汚染水対策関係閣僚会議」で決定するという姑息なやり方。しかも、科学的根拠を何か示さずに、「問題は風評被害だけ」というペテン。あまりの腹立たしさに、夜も眠れない思いだ。(新田蕗子/3面に関連記事)
▽声をあげ続けてきた
マスメディアではほとんど報じられないが、汚染水の海洋放出には、根強い反対運動が続けられてきた。「原発のない福島を!県民大集会」が呼びかけた、福島県の漁連、農協、森林組合、旅館ホテル組合などさまざな立場の県民の総意として取り組まれた、海外からも太平洋の諸島諸国やチェルノブイリの被災者など、30カ国以上の人々から「海洋投棄反対」への賛同が寄せられた。昨年、政府に提出された後も増え続けている。全国の業業者が加盟する全国漁連も断固反対しているのは周知の事実だ。
福島県内の市町村議会の7割で「反対、懸念、慎重に」の決議や意見書が採択され、経産省・小委員会の報告書へのパブコメは全国(及び海外)から 4千 通以上が寄せられた(未だにその結果の公表すら行なわれていない)。公聴会では反対意見がほとんどだった。
▽福島は何度も殺された
「東京の皆様も一緒に悩んでください。考えてください。東京のエネルギーのゴミです。もうこれ以上、福島をいじめないで」(いわき市Sさん、旅館経営)
「復興庁さんと全国の原子力ムラさんで(復興庁のつくった)このゆるキャラ水を明日から2年間、生活の中で使用してください。その上で、福島が判断します。そのために2年間だと思います」(いわき市男性50代)
「『たらちね』(いわき放射能市民測定室)では15年から福島第一原発沖での海洋調査を実施しています。揺れる船上でのサンプリングは大変ですが、この10年の汚染水問題を考慮し、万が一流した時のために、それ以前のデータが重要と思い続けてきました。その『万が一』が決定され、信じられない気持ちです」(たらちねHPより)
「小名浜のある漁業者関係者の方は『海の問題は漁業者だけの問題ではない。卸しの人、飲食業の人、スーパー、消費者の皆さんなどまわりには多くの人たちの生活がある』と話されました。日本を囲む海洋環境を悪化させることは、自分たちを危険にさらすこと。40年後の日本がどうなっているのか、みんなで考え、この2年間を過ごしたい。福島県は何度も殺されています。子どもたちの未来を思うとここであきらめるわけにはいかない」(いわき市Kさん)
▽2年をたたかう
福島の海は親潮と黒潮が出会う潮目といわれ豊かな漁場だ。私の母はいわき市の生まれ。子どもの頃は海辺に住む祖母の家で夏を過ごした。広い砂浜には太平洋の大波が寄せ、近所の漁師さんがいつも取れたての魚をわけてくれた。あの海が殺されるのは許せないと心底から思う。
昨年秋、政府が開いた意見聴取で、「今後必要な対策は」と問われた全漁連の岸宏会長は「海洋放出しないことにつきる」ときっぱり答えた。その通りだ。誰もが、今を生きる一人の人間として責任をとらなければならない。誰もが加害者で当事者だ。この2年間の生き方が問われている。