
2011年3月の福島原発過酷事故後、年代も職業も経歴も立場も違う人たちが、被ばくという理不尽なできごとから「子どもを守る」という一点で、全国各地で保養キャンプが始まった。この本は、関西の当事者グループの手で編み出された10年の活動記録と関連資料である。
▽日常を取り戻す「場」
保養キャンプは子どもたちの命と健康をとりもどす活動であると同時に、原発事故によって奪われた日常生活を、一時的でもとり戻す「場」である。同時に、避難や移住がぶつかる被災地福島の人々、家族・共同体に生起する対立や分断、ときには決裂との苦しいセンシティブな取り組みでもある。
この本を読んでいると、不思議なことは、受け入れ側の人たち(キャンプ主催者)が、被災地から来た子どもたちや親たちとの共同生活のなかで「つながりや助け合い」、「新たな発見、気づき」など、自らが「与えるものより得られたものが大きかった」と、感謝の念を口々にすることだ。
なんだろうと思う。被ばく生活を強いられる子どもの普通の暮らし、日常生活を求める共同・協働の場が、受け入れる側の「失っていたもの」を取り戻す場ともなり、そこに生まれる「未来」の芽を見つめることが、大切な気がする。「こんな社会であっては絶対にいけない」、「何とかしなくっちゃ」という思いが、与えられた理念ではなく、リアルな共同生活の中から切実に身に迫ってくるようだ。
▽全員が対等な立場で
「運営も、全員が対等な立場で話し合う。そのためにトップを置かない…。何かしらの力関係や言葉を飲み込ませてしまうものが、人と人の間には生じる。それらに無知で無頓着であったために、誰かを傷つけ追いやってしまう…」と、キャンプ運営の議論となる場面がある。私たち自身の社会の在り方、生き方、考え方そのものを、根本からとらえ返す作業ともなっている。
「お世話した」子どもたちが、成長しボランティアとして帰ってくる場面が、それぞれのキャンプから報告される。おそらく言葉では表せないが、子どもたちも子どもたちの感性で必死に保養キャンプの意味を自分の生き方として、自分の中で反芻しているんだと思う。
▽生まれ変わるドラマ
語りは平易だが、意味深い。単に反原発ではなく、奪われた者と奪う側に加担してしまった者とが、共同・協働・交流することで、生まれ変わるドラマでもある。そうであるがゆえに、「激しく反原発」とも思える。そういう仲間たちが、一つにつながった結晶(これまた、大きな財産)がこの本である。
子どもたちの笑顔(カラーの口絵)がまぶしい。「みんなと過ごす」場の意味を、自分の言葉で語り合う若者たちの座談会はすがすがしい。巻末の資料もわかりやすく読む人の助けになる。(石田勝啓)
編著/ほようかんさい、石風社/1600円+税2021年11月刊