▼直接参加と水平主義

 前回述べた「住民による自己統治」を実現するためのカギとなる装置が政治的プラットフォームである。「フィアレス・シティ」の第7章「ミュニシパリスト・プラットフォームの組織化:構造と群集」を参照しながら、その目指すものを見ていこう。

 「ミュニシパリズムは、……政治がいかに行われるかを変え、都市を取り戻し、人々の力を用いて地方の諸制度を公益に奉仕するものにしようとするものである。…… 私たちの組織は、私たちが擁護する変革を推し進める政治を反映したものでなければならない。それは、組織内部の民主主義、政治の女性化を推進し、ネットワークとして、また集団的知性として機能しなければならない。」(傍点引用者)

 ここで示されているものは、政治的マイノリティを積極的に包摂した住民の直接参加による水平主義的な対抗権力組織を形成し、その対抗権力を梃子にして資本と国家のヘゲモニーの下に置かれているコモン、諸制度、そして都市を一人一人の住民の手に取り戻すという展望である。

 このような政治的プラットフォームの形成にとって中心的な要素は、政治諸党派の連携ではなく、一人一人の住民の主体的参加であり、そうした住民の群れ、「群集」を創り出すことである。そして、活き活きとした群集の活動を保証するための組織構造のあり方が重要となる。

▼「群衆」はいかに生みだされるか

 「フィアレス・シティー」は、「ミュニシパリスト組織は、誰もが対等に参加できること、とりわけ選挙政治の経験のない人々も対等に参加できることを保証しなければならない。…… この過程の中心的な要素は群集である。」と述べたうえで、プラットフォームを形成し、群集を産み出し続けるための次のような留意点を挙げている。

 (1)既存の政党や運動のメンバーではない市民に接触し、より多くの市民に参加してもらうこと、市民のリーダーシップを促進すること。人々は対等な個人として(それぞれが所属する政党や、諸制度、組織全般における役割から独立して)参加することが要請される。

 (2)イデオロギーやレッテルではなく、達成すべき目標で団結すること。

 (3) 参加する人々の力を最大化するために、関与のレベルにふさわしい役割と任務を創り出すこと。

 (4)「近隣の町内会レベルでの集会が、組織的なモデルとして、しかも活き活きとしたダイナミックなやり方で、代表される必要がある。ミュニシパリズムの力の源泉は、地域の集会であり、地域に根差した小規模の諸組織である。地域の活動家の仕事は、プラットフォームと地域の諸運動との間の極めて重要な架け橋であり、プラットフォームを、それを取り囲む日々の生活の中に根付かせ、プラットフォームがその中で活動している現実に目を向け知ることを促進する。」

 (5)対立を抑圧しないこと。「内部批判と意見の多様性はプラットフォームを成長させる。対立は組織を再活性化する力とみなすべきであり、率直で開かれた論争を通じて、コンセンサスを得ることを追求すべきである。」

 (6)古い垂直的なダイナミズムを解体し、ジェンダー・パリティ(公正)を保証し、集団指導を推進する機関を形成すること。「複数の政治的ポストを一人の個人によって占めることは避けるべきである。ジェンダー・パリティ(少なくとも50%を女性に)を導入しなければならない。」

 その他にも、集会への参加方法やコミュニケーションに関する創意工夫が行われている。〈会議で発言する際の時間を制限しより多くの人が発言できるようにすること〉〈考えを表明しやすくするために、小さなグループに分散しての議論、カードに書き出すこと、オンラインでの参加などの工夫をすること〉〈住民のある特定のセクターに対し、特に時間の負担を課してしまうことに配慮し、参加のプロセスを短く時間のかからないものにすること、子どもの託児所を提供すること、会議や集会の開催時間を多様にすること〉など。

▼集団的知性

 こうした水平的な組織構築への努力は「集団的知性」を創り出すためのものと位置づけられる。「集団的知性とは、コミュニティの全ての人の知識、知性、知恵、技術、能力を活用することである。集団的知性に価値を置くことにより、プラットフォームは不可能に思えることを可能にする。権力と意思決定を一人の人間ないし一部の徒党に集中することを避け、オープンな集会・ワークショップ・調査(アンケート)・ブレーンストーミングといったプロセスを作ること、集団的知性と実践を発展させることである。こうしたプロセスを経ることで、敵の専門知識、ヒエラルキー、そして攻撃に対処することができるようになる。常に、政治の悪影響を被っている人々の知識に頼るようにすべきであり、専門家や権威の知識にばかり頼るべきではない。」(つづく)