
自ら招く一蓮托生
アメリカ軍が他国の軍隊によって攻撃されたからといっても、通常の場合なら日本の存続が危うくなるということはあり得ないはずです。ただ、日本政府とアメリカ政府は、現在、台湾有事に備えて共同で対応しようと話し合い、そのために自衛隊の基地を新設増強し、自衛隊と米軍との合同訓練にもやっきになって実施している。そういう戦争準備行動を日米間でやっていれば、アメリカを攻撃した中国は、次に自衛隊を攻撃してくる可能性は高い。そう考えると、アメリカが攻撃されたら、なるほど日本の存続危機になるといえるかのようです。
しかし、そういう筋立てで自衛隊の集団的自衛権出動を容認するというのは、どこかおかしいと感じませんか。日本がアメリカと共に戦争準備行動をしているから、そういうことになるのです。そんな一蓮托生のような危ういことをしていなければ、アメリカの次に日本が標的になるという事態は考えにくい、そうではありませんか。「日本の存続危機」とは、自分のまいた種から生じた事態、自らが招いて生じさせる事態なのです。
限度は専守防衛
憲法9条のもとで戦争を放棄したはずの日本の自衛隊であってみれば、その行動は専守防衛が限度です。よその国同士の紛争に日本が参戦するというのは、もっと例外中の例外としなければなりません。まことにやむを得ない場合に限られるとしなければならないはずです。
米軍とともに戦争準備行動をしているがために攻撃を受けたという場合、すなわち「自ら招いた行為」の場合には、それがまことにやむを得ない場合といえるでしょうか。そのことをもって76条1項二号の「存続危機」を認定してよいのでしょうか。集団的自衛権を発動することは許されるでしょうか。国会で大いに議論し、自衛隊出動反対の論陣をはることのできる事柄だと思うのです。
「正当防衛」に例えれば
この理屈は、法律専門家からみれば、わかりやすいことですが、一般の方には少し分かりにくいことかもしれません。もうすこし説明を加えさせてください。
刑法という法律に正当防衛という規定があることはご承知かと思います。正当防衛なら、たとえ人を傷つけても無罪になる、あの理屈です。相手から突然に攻撃された場合にとっさの防衛行為が正当防衛となるということです。したがって、相手からの攻撃が予想される場面にあえて自分の身をおいていた場合には、「突然」とはいえず「とっさ」でもないので、正当防衛とはなりません。
たとえば、ある男が恨みを持った相手の家にバットをもって近づき、相手が家から出てくれば殴りつけてやろうと庭先でウロウロしていたとします。相手は家の中からこの男を見つけ、けしからん、こちらから攻撃してやろうと刃物をもって突然出てきた、男はその刃物による攻撃をかわそうとしてバットで相手を殴りつけ怪我をさせた。
この場合、その男は正当防衛にはなりません。なぜなら、男の待ち伏せ態度によって相手の攻撃を呼び寄せたことで「自ら招いた行為」に当たるからです。法律的に言えば、正当防衛の要件である「急迫不正の侵害」に当たらないということです。
たしかにバットをもって待ち伏せしている男に正当防衛を認めて無罪というのは、常識的にみてもおかしいと感じられます。
戦争準備が
戦争につながる
犯罪行為を正当化して無罪とするのが正当防衛だとすれば、憲法9条により禁じられている戦争を正当化するのが自衛隊法76条の出動命令です。76条は正当防衛の規定と似たところがあります。戦争準備行動をしている日本が中国から攻撃を受けた場合、日本は「自ら招いた行為」にあたるというべきです。刑法の正当防衛の理論と似て、自衛権の行使を正当化できない、そのような法律的議論は十分に可能だと思います。
もとに戻ります。シナリオ三つ目にあげた、日本が中国から直接に攻撃を受けたから自衛隊法76条1項一号の出動をするという場面です。この場合には、何ら問題なく国会は出動を承認すべきのように思われます。
ただ、どうなのでしょうか。台湾有事において中国が日本を直接に攻撃するというのは、ここでも日本と米国との政府間協議、自衛隊基地建設、軍隊の共同訓練などアメリカとともに戦争準備行動をしているからではないでしょうか。安倍元首相の発言のような挑発的言動をしているからではないでしょうか。
こんな準備や挑発をしていなければ、中国は日本を攻撃してくることはないのです。先ほどの理屈と同じことで、「自ら招いた行為」ということにならないでしょうか。自衛権出動を許すべきかどうか、国会で議論するに十分な理由があります。
(ブログ「隠居老人の日中不戦祈願」参照/見出し、小見出しは本紙)
さすが法律の専門家その通りだと思います。
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