
日本郵便株式会社が、貨物自動車運送事業輸送安全規則で義務付けられた点呼業務を適正に行っていなかったことが大きな問題になっている。点呼不正の発覚後、日本郵便は4月11日付で「業務内(通勤を含む)の飲酒運転が確認された場合は懲戒解雇により社内処分を行います」と文書で社員に周知した。近畿支社の携帯端末によるアルコールチェックの研修動画を見ると、前日に飲酒したAさんが、始業直後の点呼・アルコールチェックで呼気1リットルあたり0.15ミリグラム未満のアルコールが検知されたケースが紹介されていた。動画では「飲酒運転をしてしまったAさんは本日以後、出勤できなくなりました」と、Aさんを解雇したことをにおわせている。本当に解雇されたのかどうかは不明だが、「懲戒解雇」の脅しが、この研修動画の眼目のようである。
飲酒運転は悲惨な事故に直結する。その防止のために、アルコールチェックが義務付けられている。日本郵便では、二輪で5割以上、四輪で7割以上も点呼していなかったり、不実記載したりしてきたことが判明している。内部告発があっても、実態は変わらなかった。点呼不正の責任は経営者側にあることは明らかだ。点呼を適正に実施し、飲酒運転を防止する体制を整備するのは当然だ。
しかし真っ先に労働者に対して「飲酒運転は懲戒解雇する」と打ち出す日本郵便のやり方には、経営者が防止策を怠ってきたことへの反省が微塵(みじん)も感じられない。彼らの関心はもっぱら、労働者の取締りと懲罰にあり、「研修」も脅迫めいたものになっているのだ。
点呼でアルコールが0.01mg/L検知されれば、「通勤手段に応じて即刻解雇」はどう考えても厳しすぎないか。検知されれば、運転させなければいいのである。度々検知される人は、アルコール依存症が疑われるかもしれない。アルコール依存症は病気だから、その人を医療につなげるべきだ。管理者は「点呼の目的は社員と地域住民を守ることが第一」だと毎日言っているが、そうであるなら社員の健康も含めて考えるべきだ。
アルコール依存症の直接の原因が過度な飲酒習慣にあったとしても、なぜ毎日飲むのか、飲まざるを得ないのか、という背景に思いを馳(は)せる必要もあるのではないか。他の依存症も含めて、発症のきっかけに激しいストレス、抑圧、例えばパワハラ被害などがあったという人はいる。私は郵便局でそのような事例と向き合ったことは一つや二つではない。元をたどれば職場環境に原因があった例もある。「飲まずにやってられるか」ということが続いた結果、ある朝アルコールが検知されたとして、それは本人だけの責任なのか。
会社は飲酒運転防止に関連して、アルコール依存症についての研修も行っているが、本当に酷い内容となっている。作成したのが近畿支社かは知らないが、アルコール依存症の人は「意志は弱くどうしようもない存在」であるかのように描かれており、「挙げ句の果てに事故を起こしかねない」ときめつけて、差別や偏見を助長するような内容だった。「だから会社は厳しく取り締まるのだ」と言わんばかりに。これは依存症を克服することの困難さへ無理解にとどまらず、人権を侵害する内容だ。こうした研修資料を見ると、日本郵便が飲酒運転防止を真剣に考えているのかは、疑わしいと言わざるを得ない。(集配労働者/阿部誠二)
