私が沖縄基地問題に関心を持つようになったのは、1995年に沖縄で起きた非常に痛ましい事件からだ。3人の米兵による、女子小学生に対する性的暴行事件である。事件後、3人の米兵は日本で刑事罰を受けることなく、米国に帰還したという。これは、地位協定により米兵が日本国内で事件を起こしても、日本の警察官に逮捕などされないことを意味した。
当時の大田昌秀・沖縄県知事は、県民の生命と財産を守るため日本政府に、「直ちに地位協定を改正せよ」と要求した。これに対する日本政府の返答は、「現行の地位協定のまま、運用を変更すれば十分である」というものだった。

人権を阻む「地位協定」
しかし、いま沖縄県の現状を見れば、それは改善されるどころか悪化しているのではないか。日本同様の第二次大戦の敗戦国であるドイツとイタリアでは、駐留米兵による事件を当事国の国内法により処理しているという。なぜ、日本はそうならないのか。実は、地位協定がドイツやイタリアのようにならない理由を、米国が述べたことがある。「日本の地位協定を改正するには、日本の刑事司法体制を欧米並みに変更しなければならない」というのである。
つまり「日本の刑事事件における被疑者の扱いが、人権を無視している。取調べに弁護士を同席させることや、被疑者に対して『推定無罪』の原則を守るべき」というのである。私は日本の刑事司法体制が人権を蔑ろにした前近代的体質のままだから、えん罪被害がなくならないと思う。
日本政府が地位協定についての米国側の返答を公表したがらないのは、地位協定の改正よりも、検察官出身の法務官僚が多い法務省に忖度しているとしか思えない。だが、全国からの地位協定改正の声は小さくないのだから、刑事司法体制を抜本的に変更する必要がある。

普天間も辺野古も
地位協定の改正が進まない中、先の少女暴行への怒りが収まらない沖縄県民の動向を危惧した日米両政府は「普天間飛行場の返還」を発表し、県民の怒りが収まったかの状態となった。しかし、「普天間飛行場を返還するには代替え基地が必要」と言われ、しかしもその代替え基地の候補地が同じ沖縄県の名護市辺野古だとなれば、県民の怒りは再燃することになって当然だ。
「返還合意」がなされてから30年になるが、普天間飛行場は改修工事がされ返還される気配は全くない。なぜか。普天間飛行場は米軍基地であるだけでなく、「国連軍」の基地でもあることをご存知だろうか。日本には普天間飛行場を含め、キャンプ座間、横須賀海軍施設、横田飛行場、佐世保海軍施設、嘉手納飛行場、ホワイトビーチと7カ所の「国連軍」基地がある。
朝鮮戦争の休戦協定が結ばれた後の1954年に、「朝鮮半島有事に備える目的」で在日米軍基地と併用する形となった。この国連軍には9カ国が加わっている。冷戦終結後は国連軍基地の必要性が疑問視され返還も考えられたらしいが、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核開発疑惑が浮上すると、(1994年ころ)必要性が重視されるようになった。普天間飛行場の返還となれば、米国と交渉するだけでなく、国連軍を形成している9カ国とも個別に交渉しなければ返還されないことになる。国連軍基地については、川名晋史著『在日米国基地・米軍と国連軍、「2つの顔」の80年史』(中公新書)に、くわしく書かれている。

代替えなし返還、地位協定改定を
さて、普天間飛行場の国連軍基地返還に関しては、9カ国と個別に交渉しなければならないが、日本政府がそうした形跡はないという。鳩山由紀夫・元首相は、普天間飛行場が国連軍基地であることを全く知らずに右往左往した挙句、普天間飛行場が国連軍基地でもあることを知り挫折したのではないかと、先の著者は推測している。
以上のことから、普天間飛行場はたとえ代替基地が完成しても返還されるのは難しい…。ならば、辺野古基地建設は中止すべきである。その上で、時間がかかろうとも「世界一危険な基地」だから、人命尊重の立場で各国と粘り強く、代替えなし返還の交渉を続けることである。さらに日本の刑事司法体制を人権尊重を軸に改革し、米国にあらためて地位協定の改正を迫るべきだ。(片岡英夫/元高校教員)