
兵庫県百条委員会の斎藤元彦知事の証人尋問を2回傍聴したが、人を食ったような応答に暗澹たる気持ちになった。隣の傍聴席の高校生は、「こりゃああかんわ」と捨て台詞(せりふ)。奥山俊宏さんの参考人の意見陳述を鮮烈な思いで聞いた。
奥山さんは新聞記者歴33年、UCUJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)のメンバー、国内外の公益通報者保護制度に精通している。意見陳述後、SNS上をはじめ、誹謗中傷・デマ、個人攻撃にさらされながら、上智大新聞学科の学生とともに講義・研究を続けている。この書は、奥山さん2年がかりの「たたかい」の集大成、総括である。兵庫県の内部告発に端を発する、今も未解決なまま継続する問題は、一地方自治体の特殊な問題などではない(翌年、宮城知事選挙での様相も)。日本の、今後の政治や社会を揺るがす一大問題である。そういう意味、非常に重要な書として注目すべきである。克明に経緯・問題点を明らかにしている。
斎藤元彦知事という、歪んだ権力者の自己保身を発端として兵庫県政の歪み、公益通報者保護制度への無知とその破壊、SNSによるデマ・誹謗中傷を駆使した「2馬力選挙」等、様々な矛盾が露呈・爆発し、3人を自死に追い込んだ複雑に絡み合った事件である。さらに、斎藤知事の「再選」という事態は世論を二分し、分断・対立を激化させている。
奥山さんは、「まるで独裁者が反対者を粛正するかのような、陰惨な構図」と弾劾した。
二点を紹介する。大企業の80%が、「内部通報の窓口」を企業外の第三者機関においている。東京証券取引所が、上場規定に「窓口を企業外に置くべき」としている。また47都道府県の37県が、第三者の弁護士や県庁外に置き、知事や県上層部権力者の圧力を排しているのに、兵庫県庁は外部に窓口を置かず、全国でも非常に遅れた県庁である。
「兵庫県がこれら制度を整えていれば、県民局長は自死せずに済んだ」と、奥山さんは言う。兵庫県は、事件発覚後の24年12月に「外部窓口」を設けた。しかし、受付・調査・是正の3業務の内、受付は外部に移ったが、調査・是正の業務は、知事もしくはその部下が調査の必要性を判断するという。あきれてものが言えない。
いまひとつは、百条委員会・第三者委員会の結論に従うならば、県民局長の処分を撤回し謝罪すべきことは、誰でもわかる。それなのに、斎藤知事は未だ「判断は誤っていない」と居直り続け、処分撤回と謝罪を拒否している。他方、全国で少しずつ改革が進んでいることも記載されている。また、「県庁現場に斎藤知事を支持する人は、ほとんどいない」と、県職員の報告がある。たたかいは、なお続くが、大きな武器(本書)を手にした思いだ。(啓)
