
困難な状況で立ち上がるユダヤ人
ガザ戦争に続いて、イスラエルはイラン戦争を開始した。イスラエル国内のユダヤ人は、6~7割がイラン戦争支持である。「イランが核兵器を持てば、自分たちイスラエルがやられる」という恐怖心が支持の理由だが、イスラエル自体が核保有国。米国との強固な関係を見れば、自国こそが中東諸国を威圧し続けてきた存在とは考えない。そこには、ネタニヤフ政権のフェイク政治が色濃く影響している。
2024年9月22日、イスラエル軍はアルジャジーラのパレスチナ支局を急襲して封鎖した。現在も封鎖は続いている。万事がこのように、テレビ、新聞などのメディアの情報から遮断されてしまうと、人々の情報源は、ネット上のSNSだけとなる。そこでのプロパガンダによって人々はやがて洗脳され、「何が真実か」が見えなくなっていく。
しかし、このような困難な状況下で、テルアビブやエルサレムで何十万というユダヤ人が、ネタニヤフに抗議するデモを行っている。
まず入植の実態について触れておきたい。ユダヤ人たちが入植地として選んでいるのは、1年を通して暖かく、ヨルダン川の恵みによって肥沃な土地である。そこは古代から農業が発展し、文明が発祥したところだ。パレスチナ人は、こうした「豊かな土地」から暴力で追い出され、その後にイスラエル政府の手厚い支援で立てられた瀟洒なマンション、最新のかんがい施設を完備したユダヤ人入植者たちの土地が増えていく。国道には笑顔の子どもたちが「一緒に入植しようよ」とヘブライ語(※1)で呼びかけている巨大な看板が設置され、「平和」を演出している。
人間の盾でパレスチナ人を守る
今年1月、西谷さんはヨルダン川西岸のラス・アルアイン村を訪れた。そこは2年前まで、ベドウィン(遊牧民)が暮らす牧歌的な村だったが、ネタニヤフの入植地拡張計画によって、武装した入植者たちが村民の家屋を襲撃し、その土地を奪い取った。
西谷さんが訪問した日、入植者に対する大規模なユダヤ人による抗議集会が行われた。ユダヤ人の平和団体が各地から自家用車や観光バスに乗って集まり、プラカード、旗、ドラム、ハンドマイクを持って激化する入植者の暴力に抗議した。入植者たちは山の中腹に家を建て、麓のパレスチナ人の村を襲っている。ある村民は、「この2カ月で5回も襲撃された。羊が2200匹も盗まれ、家が壊された … 」と嘆いた。彼はやむなく先祖代々の土地を離れざるを得なくなり、車につないだリヤカーに家財道具を積みこんでいた。
平和団体のメンバーたちは「入植者は出ていけ、襲撃するな」とヘブライ語で叫んで、集会を始めた。数十台のベッド、ソーラーパネル、冷蔵庫を備えた大きなテントが設置されている。「団結監視小屋」だ。毎晩40人が交代で泊まり込み、襲撃に来た入植者たちを、体を張って追い返していた。入植者たちも、「パレスチナ人を殺しても捕まらないが、ユダヤ人を殺せば殺人罪に問われる」のをわかっている。平和団体のユダヤ人たちは「人間の盾」となって、入植者の暴力を阻止しているのだ。西谷さんの取材中も団結小屋にイスラエル軍がやって来た。そこに入植者たちも加わって緊迫した場面が続いたが、やむなく軍と入植者は一旦去って行った。
こうした平和活動家の動向をシンベト(諜報機関、海外ではモサド)のメンバーが常に監視している。平和団体の人々はユダヤ人であっても、ネタニヤフの厳しい敵視政策による弾圧の対象である。活動家たちのプラカードの中には「アパルトヘイトは負ける、人間の尊厳が勝利する」と英語で書かれたものもあった。情報統制をうち破って、いかに世界の人々にイスラエル政府の圧政を訴えるかは、彼らにとっても重大な課題である。
世界中を巡って訴える
ユダヤ人のイノン・マオズさんは、アラブ人のアジーズ・サラーさんと共に「イスラエル&パレスチナ平和運動」を立ち上げ、二人で世界を巡って平和を訴えている。イノン・マオズさんはキブツに住む両親をハマスに殺された。アジーズさんはイスラエル兵に兄を殺された。つらい過去を乗り越えての連隊だ。彼らはローマ法王に会い、米国ではTEDトーク(※2)に出演した。本の出版も予定されている。
一人でハンストで闘い続けるユダヤ女性
エルサレムの高級住宅地。瀟洒なお屋敷の前に女性が座り込んでいる。そこは、前エルサレム市長で、ガザ戦争の続行を強硬に主張している現・経済産業大臣のニール・バルカットの自宅だ。座り込んでいたミハイルさん(30)は、非暴力のデモで既に20回以上も逮捕されている。共に歩む仲間と交代で座り込みを行っている。インタビューした時は、「7日間水だけ」のハンスト中で、2枚の大きな写真を掲げて訴えていた。1枚は、2023年10・7のユダヤ人人質の犠牲者。もう一枚はイスラエル軍の空爆で妻子を殺されたパレスチナ人の姿。西谷さんの「メディアは来ましたか?」との質問に、「地元の新聞だけ、外国のメディアはあなたが初めて」とミハイルさんは答えた。ウクライナ戦争ではたくさんの西側メディアが現地に来ていたが、イスラエルには来ない。典型的なダブルスタンダードである。イスラエルの事態は、「宗教上のもめ事」などではない。
フェイク政治はイスラエルだけではない。日本もまさしくその渦中にある。パレスチナ人民支援・連帯に加えて、イスラエル国内のユダヤ人たちによる差別と戦争に反対する闘いをもっと世界に伝えていきたいという思いが募った。(朽木野リン)
※1 ヘブライ語は約2000年間、「死語」となっていたが、19世紀後半にシオニズムが勃興する中で復活。現在は900万人が使用し、イスラエルの公用語になっている。
※2 TEDトーク 世界中で講演会を開催し、インターネットでその講演会を配信している非営利団体TED(Technology Entertainment Design)が無料で動画を配信するプロジェクト。
