
今年9月から、パリ郊外で始まった高校生の抗議運動がフランスで急拡大し、大学生や教員、労働組合もこの運動に合流している。10月6日、フランス全土で行われた一斉デモには45万人が参加した。警察の暴力的な弾圧で、多くの検挙者や負傷者を出しながら、なぜ高校生たちは声をあげ続けるのか。10月11日に京都市内で行われた反戦集会で、一橋大名誉教授の鵜飼哲さんが、フランスで起きている闘いについて次のように話した。(汐崎)
極右政権登場への危機感
私は長年フランスに携わってきましたが、みなさんの中にも、この間のフランスにおける高校生たちの闘争を「これは一体どういう闘いなんだ」と関心を持っておられる方もいると思います。それは本当にすごい状況だけれども、たんに「フランスは素晴らしい」というようなことでは全くありません。フランスでは来年5月の大統領選で、極右の大統領が誕生する可能性が非常に高いのです。そういった大変な危機にあります。その危機感の中で、高校生たちが立ち上がったということなんです。
フランスの大統領選挙は2回選挙制なんですけれども、現状では決選投票に持ち込まれるでしょう。決選投票に残るのは、極右・国民連合のマリーヌ・ルペンと左派の「服従しないフランス」のジャック・メランションと言われています。そして圧倒的な若者がメランションを支持しています。このことを背景にした高校生の闘いなのです。
五輪反対運動の仲間たちが
私は2020年まで東京で運動していましたが、東京オリンピックの反対運動もやっていました。 2019年には東京でオリンピック反対の国際集会を開いたのですが、そこにパリ・オリンピック反対運動をやっている人たちやロサンゼルス・オリンピックに反対している人たちを招待しました。その時、フランスからやって来たのが「服従しないフランス」のメンバーで、ロサンゼルスから来たのが民主社会主義者のメンバーたちだったんです。ニューヨーク市長のゾーラン・マムダニも民主社会主義者のメンバーです。
今、アメリカとフランスで非常に力のある社会運動、政治運動を作り上げている人たちは、オリンピック反対で一緒に闘う仲間でした。おそらく日本で彼らとの共闘を経験したのは、 私たちの運動だけだったかもしれません。
日本で「オリンピック反対」というと比較的マイナーなテーマのように考えられていますが、海外では民衆が地域から排除され、そこに大量の資本が投下され、貧富の差が拡大するジェントリフィケーションを許さないという基本的な闘いをしている人たちがオリンピックに反対しています。それで、東京オリンピック反対の運動に参加してくれました。ですから、今、アメリカやフランスで起きている動きは、私にとってはひとつながりのことなんです。
ICCの本当の危機とは
話は変わりますが、国際刑事裁判所(ICC )が大きな話題になっています。南アフリカ共和国のナビ・ピレイにノーベル平和賞が授与されましたが、それと同時にアメリカのトランプ大統領はICC そのものを制裁に対象にすると言いました。そして、日本政府は相変わらず何を言っているかわかりません。ICCの所長が日本人であるにもかかわらずこんな態度を取っているわけです。
それでは、いつからトランプ政権とICCの関係は非和解的になったのか。イスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフと国防大臣のヨアヴ・ガラントを戦争犯罪の罪で指名手配された時からです。ICCがこの2人を刑事訴追して逮捕状を発行したことがその原因でした。
現在、ICCは大変な危機にあると言われていますが、ここにメディア報道の間違いがあります。ICCが決定的に危機を迎えたのは、実はロシアのプーチン大統領に逮捕状を出した時でした。ICCはそれまではアフリカの指導者しか裁けなかったのですが、ついにプーチンに逮捕状を出すということになった。そうなれば次は、西側、欧米の戦争犯罪人を訴追しなければ、その時点でICCは終わってしまっていたのです。ICCに対するダブルスタンダード批判が強くなり、アフリカ諸国からどんどん「もう脱退する」と言われ、いわばその力に押される形で、イスラエルの2人の指導者、ネタニヤフとガラントに逮捕状を出さざるを得なかったのです。これは基本的に民衆の闘争です。パレスチナの闘いがあり、アフリカの人々の声があって、ICCがイスラエルの指導者に対する逮捕状を出すというのは、いわば論理的な必然だったのです。
そうしてICCとアメリカとの対決というところに来ているわけです。だからこの全体をよく認識して、例えば憲法9条を守るにしても、力ではなく法による支配が実現しなければできないわけですから、このつながりをしっかり押さえて、高市政権に対して、強い抗議の声を上げていかなければいけないと思います。
「分断」を超えなければ未来はない
話を高校生の闘いに戻しますが、彼らの闘いは非常に具体的です。 何が具体的かというかというと、「分断されない」ということを徹底的に考えて、非常に大切なメッセージを発しているわけです。どういうメッセージかというと、あまりにも文教予算が少ない。あまりにも教育条件がひどい。教室の中は本当にボロボロで、雨漏りしている、ネズミが走っているという学校がたくさんあるわけです。そのような状況を改善しろと、エリート校の学生たちも高校生たちも一緒になって声を上げていく。この分断を超えなければ、もう世代の未来も社会の未来のないという認識をきちんと深めているということがまず一点目です。
二点目は、 先ほどもお話ししましたように、このまま放っておけば来年の春には独裁政権、ファシズムになってしまう。今、フランスの10代から20代の若者たちの間では圧倒的に、メランションの「服従しないフランス」の支持が強いわけです。だから、極右が政権を取るとすれば、それは大人の責任だということで大人に対して具体的にこれをするなと、極右が制圧しているテレビ・チャンネルは見るなと、具体的な名前をあげて要求をしています。これには本当に感心します。
来春までの長期闘争に挑む
それから暴力の問題です。社会運動が大きくなれば 必ず警察との衝突が起きます。今のフランスの警察はとんでもなく暴力的です。そうすると、少数の人たちと警察が起こした衝突が針小棒大に報道されて、運動全体が暴力的であるかのような悪宣伝がされる。ここで分断されてはいけないということで本当に考えたと思います。 あるカトリックの司祭の暴力論を簡潔に引用しています。
暴力には3つある。まず体制の側の暴力がある。ある意味でいつも暴力の中で社会生活が行われているし、特に弱者たちはその犠牲にあっている。第二に、その暴力に対する異議申し立ての暴力がある。 そして第三にその暴力を抑圧する暴力がある。この二番目の暴力だけを批判するのは不当である! ということを声明の中ではっきりと表明しているわけですね。これを、高校生たちは「そうだ!」と納得して運動に出ていく。だから少数の衝突が報道されても全く動揺しないのです。
今の高校生たちは、長年のフランスの社会運動の中から本当に深い知恵を汲み取って、こういう形にしてきたということなんです。そうやってフランスの高校生たちは、来年の春まで長期的な闘いを見通して、街頭に繰り出しているのです。
