
デヴィッド・グレーバーの『負債論』の監訳で知られている酒井隆史さん(立命館大学教員)の講演会が京都でおこなわれた。
テーマは、昨年秋のニューヨーク市長選挙で、ムスリムであり、ウガンダ生まれで南アジアにルーツをもつゾーラン・マムダニ氏の当選がなぜ起こったのかということだった。この動きは,世界中のニュースにもなり、私も大きな関心があった。
大衆運動の長い歴史
選挙は2025年の秋におこなわれたが、マムダニ氏の勝利というのは、その時々のブーム的なことではなく、アメリカの左翼的な大衆運動の長い歴史があることが強調された。
アメリカを中心とした新自由主義・グローバリズムが跋扈する中、1999年のシアトルでの世界貿易機関(WTO)総会に対する反乱が起こった。世界の多数の左翼勢力・環境活動家らが集まった。そこで反資本主義と反グローバリズムが手を結び、世界の左翼運動の共通の出発点ができあがったという。そしてその流れの中から、2010年からはじまったニューヨークをはじめとした都市占拠運動も世界中での大きな波になっていった。
討議の仕方が変わった
そして大切なことは、単に市民運動が盛り上がったというのではなく、参加する活動家や市民の中での討議のあり方が変革されていったという。ただ個々のグループが主張を繰り返すだけでなく、お互いの声に耳を傾けていくありかたや、水平主義的な関係づくりが重要視された。また具体的な課題としての人種差別の問題と階級的な課題との結合や調整、そして国際的な連帯・協調行動が重視されたという。2010年には、左派の雑誌としての「ジャコバン」誌が20代の若者によって創刊され、現在も継続している。このような左派運動の粘り強い活動が、継続的に若い世代に引き継がれ、アメリカの政治に組み込まれていることが,今回のマムダニ氏の勝利に結びついていることが話された。
民衆の街、ニューヨーク
特にニューヨークは、日本では金融の街として,高所得者の街のように見られているが、実は民衆の街でもあることが強調された。数多くの市民運動が長年にわたって継続され、活動家を生み出してきた街である。今回のマムダニ氏の当選を支えたのは、若い活動家たちの一軒一軒の個別訪問によるコミュニケーションにあったという。ただマムダニ氏への支持を求めるだけでなく、「何か困っていることはないですか?」というような話から地道に会話を積み上げていくことが実践されたという。現在のアメリカの政治地図からするとマムダニ氏のニューヨーク市長当選は奇跡的なことのように思われるが、実際にはしっかりとした運動自身の積み重ねによる選挙の勝利であった。
社会運動のバージョンアップ
講演の中では、アメリカの運動で使用されている「アセンブリ」「合意形成」等、独自の用語があり、なかなか具体的なイメージが日本の運動圏の中では理解がしにくいところがあったが、社会変革の運動が、21世紀的に大きくバージョンアップされていることは実感できた。
酒井さん自身も、ご自身の若い頃からの運動経験を踏まえて、日本の運動の弱さは世代間の継承を大切にしてこなかったのではないかということをあげられていた。
そしてまとめのような発言として、左翼にありがちな固定的な「革命」観を脱して、「革命とは、権力奪取の瞬間にあるのではなくて、人々がお互いをどう扱っていくのかの習慣の変容の中にこそある」と述べられ、まとめられた。非常に内容のある講演だった。(秋田勝)
