
米軍とイスラエル軍によるイラン侵略戦争が2月28日に始まってから3カ月がたとうとしている。
大規模な戦闘はいったん収まっているが、両軍のにらみ合いや小ぜりあいが続き、いつ本格的な戦闘が再開してもおかしくない状態が続いている。ホルムズ海峡はイラン革命防衛隊(IRGC)に封鎖されたまま、米軍による「逆封鎖」もあいまって湾岸諸国の輸出入はほぼ停止。戦争前の状態に復旧する見込みはほとんどなく、原油や肥料の供給が止められた世界経済は未曽有の危機に直面している。
第2次世界大戦に匹敵する世界史的大事件、構造的大変動が進行している。現在進行形の渦中にあって事態を理解することはとても難しいが、まずは「今、何が起きているのか」を確認したい。
1.危機の震源地=イスラエル
この戦争が始まった原因はイスラエルにある。イランのイスラム政権崩壊は間近だ、イランは3週間もあれば核爆弾を装備する等々、イスラエル首相ネタニヤフがあることないことトランプ政権に吹き込んで説得し、戦争に引きずり込んだ。その経緯をニューヨーク・タイムズ紙(以下NYT)が詳細に報じているが、報道によれば、昨年12月以来、ネタニヤフはたびたびトランプの元を訪れ、イランを軍事的に攻撃する必要性を説得し、その作戦計画を詳細に詰めていた。
米国国家テロ対策センター元所長ジョー・ケントが暴露したように、アメリカに18ある情報機関すべてが、イランが核兵器を開発している兆候はなく、イランは米国にたいする脅威ではないと報告していた。しかしトランプは「イランの核武装は間近」というイスラエル諜報機関モサドのでたらめな報告をうのみにしている。
また、米軍の空爆さえあればモサドの工作が奏功してすぐにでもイスラム政権は崩壊するというネタニヤフの見解を中央情報局(CIA)長官は「茶番劇」と否定したが、トランプはCIAの意見にしたがわず、ネタニヤフの主張に沿って「エピック・フューリー」作戦にゴーサインを出した。「過去1年間…〔モサドは〕戦争勃発時にテヘラン政権を転覆させる可能性のある計画に同機関のリソースを投入」(NYT)しており、実際にも、経済危機を契機として昨年末に始まったイラン国内の抗議デモが当局との暴力的衝突に発展した際には、イラン当局に数百人の死者が出たのは「外国勢力」(=イスラエル)がデモ隊に実弾を供給したからだ、とイスラエルメディア「チャンネル14」が報じている。だがCIAの見立て通り空爆で革命が起こせるはずはなく、「舞台裏でネタニヤフ首相はイランで反乱を扇動するというモサドの約束が実現していないことに不満を表明している」(NYT)。
パキスタンで4月11〜12日に行われた停戦協議でも、米国代表団からネタニヤフに毎日電話で詳細な協議内容の報告が行われていたことをネタニヤフ自身が公言している。
MAGA派の若手代表格チャーリー・カークはイスラエルに反対したためモサドに暗殺されたとジョー・ケントは示唆する。トランプから離反したタッカー・カールソンというTVキャスターも「米国の政権はイスラエルに乗っ取られている」と訴える。トランプ政権はアメリカファーストを投げ捨ててイスラエルファーストに変質したとMAGA派の中でも言われており、これが左右を問わず米国で戦争に反対するグループの共通認識となっている。
イスラエルは何のためにイランの政権転覆をもくろみ、米国を戦争に引きずり込んだのか。中東地域にイスラエルを中心とする大帝国をつくるため―「大イスラエル主義」だという説明もあるが、筆者にもよくわかっていない。ガザにおけるイスラエル軍の破壊行為やジェノサイド、人種主義まるだしのパレスチナ人にたいする差別的言動を見ると、イスラエルこそ現在のナチスそのものだという気がしてならないが、なぜこのようなテロ国家が西側諸国の莫大(ばくだい)な支援を受けてこれまで存続できたのか。人口わずか1000万のイスラエルが、覇権国家アメリカの権力機構を寄生虫のように乗っ取ることがどうして可能なのか。エプシュタイン事件の背景にモサドの影がちらつき、事件を材料にネタニヤフがトランプを脅迫しているといううわさも絶えないが、起きている事態の深刻さを説明しきれるほどの材料は筆者自身も持ち合わせていない。
いずれにしても「イスラエル」という存在が、ガザをがれきの山にしただけではあきたらず、湾岸諸国を崩壊の淵に追いやり、世界経済に破局をもたらし、遠く離れた日本ですら民衆の生活基盤を根こそぎにするほどの危機をもたらしている。
テーマの解明にはほど遠いが、課題そのものをまずは確認しておきたい。
2.「イランの核兵器開発」という虚構
トランプ政権はいまだに「イランの核開発阻止」を武力行使のお題目に掲げ、高市首相も「イランの核兵器開発は認められない」と言明しているが、そもそもイランが核兵器の開発を目指したことは過去にも現在にもない。イランの立場は①核兵器をつくるつもりはないので、国際原子力機関(IAEA)にこれを査察・検証してもらってかまわないが、②核開発=ウラン濃縮の権利は国家主権に関わる原則として一切譲らない、という線で一貫している。
そもそも米軍に殺害されたイラン・イスラム共和国の最高指導者ハメネイ氏は2003年に発令したファトワ(宗教令)において、大量破壊兵器はイスラムの教えに反するという理由から核兵器の製造、保有、使用を禁じている。核兵器を開発すべきというIRGC強硬派の要求を、このファトワに依拠して拒否したのがハメネイ氏だったとも言われている。米国が「イランの核兵器開発阻止」を掲げてハメネイ氏を殺害すること自体、言っていることとやっていることが支離滅裂である。
2月にジュネーブで行われていた米・イラン間の核協議では、イランが60%に濃縮したウラン440kgを不可逆的に希釈するという合意がなされ、協議に参加していた英国もこれに賛同していた(ガーディアン紙)。しかし先にも見たように、ネタニヤフは最初からイランの政権転覆のために戦争する決意を固めており、核協議は戦闘準備の時間稼ぎでしかなかった。
もともとオバマ政権が結んだ2015年核合意は①イランは核兵器を持たず、IAEAの査察でこれを確認する②ウランの濃縮には厳しい条件をつけるが能力は保持する③イランの核開発を制限する見返りに経済制裁を解除する、という内容で、先にあげたイランの立場を詳細な条件つきで確認するものだった。2018年にトランプ政権が一方的に合意から離脱し、今回の戦争に至るわけだが、世界中に危機と混乱をまきちらしたあげく2015年と同じ内容の合意を一からまとめるのかどうか、という不毛なやりとりをトランプは続けているわけだ。
しかし両者の間で2015年と同じ合意が再び得られる可能性は限りなく低い。
4月にパキスタンで開かれた停戦協議で、イラン側は70人を超える代表団を送り込み、交渉の技術的側面に関する説明書だけでも数百ページの資料が用意されたというが、米側は交渉の原則だけを記した簡単な紙切れを数枚用意しただけで、核問題に関わる複雑で困難な協議をまとめる意思も能力も持ち合わせていないことは明らかだった。しかもイスラエルのネタニヤフ首相は、イランのウラン濃縮技術そのものを根こそぎにするという立場を一切崩していない。イスラエルがトランプ政権への影響力を持っている限り、イランと米国の間で核問題の交渉をまとめることは不可能である。
そもそもイランにすれば、現在保有している弾道ミサイルと自爆ドローンを使ってイスラエルの発電所と淡水化プラントを破壊してしまえば、イスラエルの社会的存続は不可能となり国家として消滅する。これだけの軍事能力があれば、パレスチナ人まで居住不能にする核兵器をイランが持つメリットはない。
使えない核兵器をイランは必要としていない。「イランの核」うんぬんというトランプとネタニヤフの言動はすべて虚構であり茶番である。
3.米軍神話の崩壊
世界最強の米軍がホルムズ海峡をなぜ開放できないのか。イラン軍はすでにぼろぼろではないのか。これまでの報道でそんな印象を受けている人が多いと思う。しかし戦闘の実相は米軍の完全敗北といってよく、米軍発表にもとづくメディア報道はかつての「大本営発表」と同じである。
たしかにイランの政府庁舎や警察施設、革命防衛隊の関連施設、補給設備、係留された艦船などは完全に破壊された。これに加えて、イラン赤新月社によれば少なくとも763の学校と316の病院、4万6000戸以上の住居と商業施設が被害を受けた。民間人の死者は3000人を超える。175人の児童が殺されたミナブの小学校のように、意図的に民間施設をターゲットにしたケースも多い。発電所や淡水プラント、製鉄工場、石油精製施設、製薬工場、橋梁(きょうりょう)や鉄道も破壊されており、一連の空爆は戦争犯罪としか言いようがない。
しかし、こと軍事能力に関して言えば、米軍とイスラエル軍の空爆はイラン軍の継戦能力にほとんど影響を与えていない。
ミサイル、ドローンとその発射機、製造設備、さらには空軍の滑走路と戦闘機までもが、山岳地帯をくりぬいた地下500mの要塞内部に配置され、米軍は長距離誘導弾で基地の出入り口を破壊することはできても基地の内部を破壊することはできない。米軍の空爆が終わると、付近で待機したブルドーザーが出入り口の土砂を取り除いて復旧した(NYT)。また、IRGCは戦闘機やミサイル発射機の形をした1個1000ドルの熱源付風船デコイを中国から大量に購入しており、破壊された装備の多くがただのハリボテだったという見方もある。「ミサイル発射基の90%は破壊された」というトランプの強弁とは裏腹に、CIA最新報告はイランがミサイル備蓄の3割を使ったにすぎず、ミサイル発射機の75%が今も健在だと報告している。実際、IRGCは40日間にわたって、毎日10〜30発の弾道ミサイルと数十機の自爆ドローンをイスラエルと湾岸米軍基地に1日も欠かさず撃ち込んだ。
ハメネイ氏とイラン政府高官が爆殺された数時間後、湾岸に駐留する米軍のレーダー設備と衛星通信設備がドローンとミサイルの飽和攻撃によってピンポイントで破壊され、米軍は開戦初日に部隊運用の神経系統を失った。IRGCは中国の民間企業が打ち上げた人工衛星TEE−01Bを買い取って運用しており、分解能50cmの衛星写真に基づいて目標の選定と戦果判定を行っている。ミサイル誘導のために中国ないしロシアの衛星利用測位システム(GPS)機能を用いているとも言われ、その必中半径は10m。モサド本部やイスラエル国防省ビルなども弾頭1トンのミサイル直撃で破壊されている。極超音速ミサイルは変則軌道を描いて迎撃が困難なうえ、戦闘後半になると迎撃ミサイルが枯渇したためにイスラエル軍も米軍もほぼノーガードで撃たれっぱなしだった。損傷した米軍施設は衛星写真で確認できただけでも228カ所にのぼる。格納庫、兵舎、燃料庫、パトリオットシステム、レーダーおよび通信設備などがピンポイントで破壊された。「イランの攻撃は精密だった。命中しなかったことを示すような、ランダムなクレーターは見当たらない」(ワシントン・ポスト)。米軍将兵は基地内で居住することが不可能となり、近辺の民間ホテルに避難したものの、地元民の通報やイラン諜報機関の調査にもとづいて米軍が滞在するホテルや会議場所にも次々とシャヘドが突入している。バーレーンのマナマに置かれた第5艦隊司令部は徹底的に破壊され、フロリダ州タンパに撤退した。米軍の死者は公式発表で13名、負傷者は400名を越えており、実際の死傷者数がこれを上回ることは確実である。
イランは「12日間戦争」の第一撃で防空システムが壊滅した教訓に踏まえ、赤外線や光学機能のみに依拠したパッシブシステムに防空戦力体系を切り替えていた。イランの対空ミサイルはレーダー波を使わず熱源のみを追尾するため、米軍機のステルス機能は役に立たず、ミサイルの接近にも気がつかない。レーダー波の発信源を攻撃する米軍の対レーダーミサイルも使えず、米軍機を待ち伏せする防空ミサイルの所在を米軍は把握できない。この新システムによって米軍の無人偵察機やF15戦闘機、A10攻撃機、空中給油機や早期警戒機、戦闘ヘリが次々に撃墜され、ステルス機F35ですら複数撃破されている。「イランの防空火力は壊滅した」どころか、4月2-5日にイスファハン行われたF15乗務員の「救出作戦」では、3日間で12機の航空機とヘリを米軍は失い、「軍事的大惨事」と言われる事態となった。ちなみに特殊部隊200人を投入したこの作戦は、ナタンツにあるイラン核施設から濃縮ウランを強奪しようとしたがイランの待ち伏せにあって失敗したオペレーション、というのが軍事評論家の一致した見解になっている。米空軍がイラン領空で活動することは困難で、米軍機はイラン国境近くから長距離誘導弾を放って逃げ帰ることしかできないが、その長距離誘導弾も枯渇しつつある。
「壊滅した」はずのIRGC海軍だが、その戦力の骨格はほぼ無傷で残っている。時速160kmで疾走し、対艦ミサイルを2発搭載する高速ボートは数百隻とも数千隻とも言われており、これら「モスキート艦隊」の規模は誰にもわからない。ペルシャ湾内での戦闘に特化したガディール級小型潜水艦は20隻。民間船舶が多く、海底が浅いペルシャ湾内ではソナーによる探知がほぼ不可能で、イラン小型潜水艦による待ち伏せ攻撃を米軍艦艇は防げない。もっとも恐れられているのは「アズダル」と呼ばれる水中ドローンで、これはリチウム電池で駆動する自律運行システムにより4日間にわたって海中を徘徊(はいかい)、目標を監視・攻撃できると言われている。米海軍が「タンカー護衛は不可能」と言うのもうなずける。ペルシャ湾に米軍艦艇が近づくことは自殺行為に等しいのだ。
ホルムズ海峡はIRGCの制圧下にある。これを覆すためにはイラン領内に米軍が上陸し、海岸から20kmの範囲を占領する必要があるものの、そのために必要な陸上兵力は最低でも20万人。これはイラン・イラク戦争当時も検討され、一貫して「不可能」と判定されてきた軍事オプションだ。ホルムズ海峡を軍事的にこじあけることはできないのである。
米シンクタンクCSISによれば、米軍はパトリオットミサイルと高高度防衛ミサイル(THAAD)備蓄量のそれぞれ半分、精密攻撃巡航ミサイルの45%をイラン戦争で消費した。米軍のミサイル備蓄を戦前水準まで回復するには数年かかるという。別の報道では、迎撃ミサイルが不足したために在韓米軍のPAC3ユニットや迎撃ミサイルをイスラエルに搬送したとも言われている。イランと40日戦ってこのありさま。もはや米軍には中国やロシアとの大規模紛争に対応する能力はない。米軍はイランとの戦争に「勝利した」から停戦したのではなく、これ以上戦闘を続けられないから停戦せざるを得なかったのである。IRGCが交渉で強気な立場をとるのは虚勢ではない。彼らは実際「戦場で米軍に勝った」。今後、米軍が打ち上げ花火のような攻撃をすることはできるかもしれないが、イランがこれに反撃すればもはや米軍に対応する能力はない。
湾岸に展開する米軍基地はもはや「動かない巨大な標的」でしかないが、トランプが敗北を認めることはない。「米軍勝利」の虚構の下でホルムズ海峡は閉じたままである。
4.日本の対米従属路線はもはや限界
米国の同盟国である北大西洋条約機構(NATO)諸国ですらトランプ政権のイラン攻撃を国際法違反と断じている時、世界で唯一、日本の高市首相はトランプ支持を断言した。よりにもよって戦争犯罪人のトランプを「世界に平和と繁栄をもたらすのはドナルドだけ」と持ち上げて世界中に恥をさらしたが、それでもトランプは日本の非協力を難じてやまない。高市による「兵器レベルのお世辞」も効果はなく、「日本が相手を喜ばせようとすればするほど関係が悪くなる…ほとんど虐待に近い関係」(フィナンシャル・タイムズ)が続いている。
しかし、いくらトランプにはいつくばって見せても、もはや米国は日本を守るつもりなどない。冷戦当時、米国が国内市場を開放して日本の経済発展を支えたのは過去の話。今では日本が87兆円の対米投資を行ってもその利益は一方的に吸い上げられ、収奪されるだけ。米国にとって日本という国は、米国製兵器を言い値で買わせて戦闘の矢面に立たせるだけの、都合のいい利用対象に成り下がっている。仮に中国や北朝鮮と米国の間で紛争が生じても、イラン戦争でそうだったように米軍基地は一方的な標的にされて米軍将兵は逃げ出すだろう。米軍の駐留は受け入れ国に被害をもたらすだけで、日米安保体制そのものが日本にとって最大のリスクになりつつあるのだ。
米国が勝手に始めた戦争のせいで石油がストップしたあげく、米軍に協力しないからといって日本が非難され、石油がほしければ自力でとってこい、嫌ならアメリカの石油を買え、と恐喝される。こうした関係に経済界の一部からさすがに苦情に近い声が出ているものの、自民党政権や官僚層には対米従属に代わる「プランB」を考える意思も能力もない。
ホルムズ海峡が開放される見込みが長期にわたって立たない以上、日本以外の各国がそうしているように、日本政府も石油の利用を制限し、原油備蓄の利用期間をできるだけ引き伸ばしながら、米国と距離を置いてイランとの交渉に全力をあげる以外、生き延びる道はない。しかしトランプ1択の高市政権は「原油の総量は足りている」の一点張り、統計上も明らかなナフサの供給不足をまっこうから否定し、必要な諸方策―十分な情報提供や需要の制限、医療・流通など優先対象にナフサ製品を配給する制度づくりなど―を行う気配はまったくない。6月にはナフサ在庫が付きて供給が行き詰まり、日本全国で生産や流通が止まり始めるのではないかという恐怖に近い危機感を、高市政権は「ホラーストーリーを広めるな」と一蹴した。
米国の覇権が音を立てて崩れつつある。忠犬よろしくトランプに尻尾を振る高市首相を権力の座から放逐しなければ、本当に大変なことになってしまう。日米安保体制から脱却し、米国からの自立を国民的テーマとして議論の俎上(そじょう)にあげる時が来ている。
