『She Said その名を暴け』は、業界の「神」として君臨した映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの、長年の女性(膨大な数の女優・アシスタントら)への性的襲撃・虐待に対し、ほとんどの被害女性たちが秘密保持契約と社会的抹殺の報復に縛られ、沈黙を強いられてきた現状に、敵側チームの圧殺攻撃をかわしながら、すさまじいまでの調査・長時間の聞き取りや激励の末、全米・全世界への報道(2017・10・5が報道開始)にこぎつけた記録である。

この報道を期に『The New Yorker』誌が追撃報道をおこない、さらに2006年にタラナ・パークが開始した「Me too」を引き継いだアリッサ・ミラノが「#Me too」を呼びかけた。世界中の女性が「私も」とSNSで一斉に告白を開始し、「#Me too運動」は世界的な社会運動として爆発した。ワインスタインは2018年、法廷でGPSの監視用の電子式足輪を装着され、2020年に23年の禁固刑を言い渡された。2人の女性記者、ミィーガン・トゥーイとジョディ・カンターはピューリッツァー賞を受賞する。
また1991年、クラレンス・トーマスの最高裁判事承認公聴会でアニタ・ヒルの証言、それに続き著名な科学研究者クレスティン・ブレイジー・フォードが、トランプによって最高裁判事に指名されたブレッド・カバーノ判事が、高校生の時に酔っ払って彼女(フォード)に暴行を行ったことを、難関の末についに公聴会で証言する過程が描かれる。その過程も圧巻そのもの。

終章に、被害者たちの集まりを2人は企画する。女優のグィネス・バルトローが自宅を会場に提供。目的は「決死の跳躍の後、その向こうで何を見出したのか」を、参加者に答えてもらうことにあると…。ワインスタインの秘蔵っ子、バルトローがアシュレイ・ジャレッドに「あなたが道を開いてくれたからこそ、私たちはその後から進むことができた」「最もつらかったことは、レイプを強要するための道具として私が使われてきたと知ったこと」と涙を流す。「話しを公表しなければ、何も変わりはしない」「私たちは炎の中を歩いたけど、みんなその向こうにたどり着いた」「大切なことは、声を上げ続けること、恐れてはいけないということ」と皆が語る場は、本当に闘ってよかったという思いにあふれる。「彼女たちの話の中には、詩的な力の逆転があった。嫌がらせに苦しめられたが、それと闘うことで新しい力と敬意を手に入れた」と総括する。
読んでいてついつい、ジャニーズ喜多川による芸能界での長年の性被害事件が浮かぶ。1999年から「訴えられていた」問題が、2003~04年には裁判所でも重要部分が明らかとなったにもかかわらず、日本のメディア・芸能界の隠蔽構造によって長期間封じ込められた。2023年にBBCの報道、海外からの圧力によって初めて、ついに社会問題化するに至った。喜多川が死んでから、2023年9月にようやく事務所が性加害を認め、謝罪と被害者への補償・救済に動き始めるという有様。このギャップは、何なのか。
日本の報道自由度ランキングは世界66位、ジェンダー・ギャップ指数148カ国中118位(2025年)である。「人権喪失大国」で運動するわれわれ、いつも運動の主体・根幹が問われる。『その名を暴け』は、世界に発せられた。(啓)