今月初めに、困難事案の一つが解決しました。住居の段差問題を介護の「ちから技」で解決した実例です。

共倒れ寸前のご夫婦
そのご夫婦は、要介護の当事者は女性で難病を抱えています。ついこの前までは、杖をつき手すりに捉まり、階段の上り降りができていたのですが、急に病状が進行し車椅子の生活になってしまいました。パートナーの男性は、精神疾患で失職中です。
それまで女性は週2回のデイサービスに通っており、その時間を使って男性が通院や買い物をしていました。最近は、デイサービスに行けなくなっていました。その原因は、住んでいる古いマンションの15段ほどの急な階段です。角度は45度以上です。
30度以下ならヘルパー2人がかりで、なんとか車椅子に乗ったままで上げ降ろしができるのですが、45度までなると上りはどうにも衝撃が大きくなります。
このお宅には、もともと大手の介護事業所が入っていました。そこが、この階段介護をギブアップしてしまい、ケアマネージャーがあちこち電話した末に、私が勤める事業所にたどり着いたのでした。
下見に行ってすぐにわかったのは、このご夫婦が「共倒れ寸前」だったということです。女性は難病の影響で、意思疎通が日々難しくなっていました。その一方、完全な寝たきりというわけではなく、ベッドや車椅子から突然たちあがろうとし、転倒することが頻発していました。結局、男性は目が離せなくなり、デイサービスに行くときしか、自分の精神薬ももらいに行けなくなっていたのです。
彼女が車椅子状態になり薬をもらいにも行けなくなり、私が下見に行ったとき薬は切れていました。この状態が続けばどうなるかは、介護関係の悲惨なニュースでも教えてくれています。

市営住宅への引越しに成功
階段を降りるのは、車椅子に乗ったままでなんとかなりましたが、問題は上りです。結局、あれこれ試した結果、私がおぶって女性スタッフが後ろを支え、さらに女性に「つかみ癖」があったため、男性に階段の上の方から女性の両手を軽くつないでもらい、わりと安定して登れるようになりました。
やっている者はひっしですが、4人がダンゴ状態になりながら階段をゆっくり上がっていくのは、事情を知らない人が見たらなんと思ったでしょうか。動画を撮っておかなかったことが少し残念です。現場では、そんな余裕はなかったのですが…。
とにかく、週2回のデイサービス送迎が安定したことで、男性の通院と服薬が復活し、このマンションからの「脱出作戦」が始まりました。「今の自宅からなるべく近い、エレベーター付きの市営住宅」という難しい条件があったものの、1年半で抽選に当たり、今は新居で新しい生活を始められています。もう、階段に悩まされることはありません。

今後の課題の一つ
今回のケースのように、「急な階段」という一つの困難要因が引き金になり、一気に生活が詰んでしまうということが、介護の世界の恐ろしいところです。今の介護保険の制度では「移動」は、そこまで重視されていません。しかし、今回のような「馬力のある介護」ができるスタッフを育てていくことも、一つの課題になっています。(小柳太郎/神戸市)