
生き直すことは、できないが
人は、物理的に生き直すことはできないが、総括作業を通して「生き直す」ことができるはずだ。筆者は、そう信じ、仕事柄もあり、その時々の総括作業を自らに鞭打って行なってきた。それは、政治活動に学んだというより、震災被災地での活動や労働組合活動の中でこそ、学んだことだといえる(政治活動では、どうしても政治目的に沿った政治的総括に流れがち)。
だからバイアスを排し、心を真っ白にして総括作業を大切にする必要がある。マルクスは、人類の歴史・叡智の総括の中から、とりわけイギリスの経済学、フランスの革命、ドイツの哲学の総括の中から、オルタナティブの未来社会像や革命論や哲学や課題を人類に残したが、その神髄は「反省の哲学」にあると信じる。
ここでは、「出来事そのものを変えることはできない。しかし、出来事にどのような意味を与えるかは変えうる。絶望の体験が使命へと転化していく」「体験を、より意味ある文脈に置き直し、希望を持ちうる物語を丁寧に紡ぎ直すことである」とある。
生きる過程から見出される「意味」
それが、心の病からの回復につながるという。これが『物語で治す~社会を変える精神医学』から学んだ、核心の一つである。意味(意義)というものは、所与のものではなく(決められた答えとして与えられるものではなく)、生きる過程の中で見出され(紡ぎだされ)いくものであると思う。「意味の再構築」「社会や人との関係の再構築」が大切とされる。
解説は手が余るが、<記憶の再構成のメカニズム><(人間や社会との)関係性が脳を修復する><感情の言語化による調整><物語が生み出す希望><病むことと生きることの物語>などなど…。
社会の厳しさ、人の柔軟さ
さまざまな小見出し部分に、深く教えられる。<感情の言語化による調整>などは、ブレディみかこが大切だと述べていた「エモーション・リテラシー(感情の識字=「感識」)のことだとつながり、唸ってしまう。
生活上の必要から精神医学の本を手にするが、この本は病者にとっても健常者にとっても、自己や人間洞察にとって役に立つ本だと思う。なによりも、書名がすばらしい。内容はもっと素晴らしい。
遺伝子の配列そのものは変わらなくとも、社会や環境の変化によって遺伝子の働き方が変化することも知った(「エピジェネティクス学」というらしい)。人間とは、「つくづく柔軟にできているんだなあ」と思う一方、この社会は本当に厳しい。(啓)
