
今国会で審議中の国家情報局設置法案。一体何のために政府は国家情報局を創設しようとしているのか。その危険性について永嶋靖久弁護士が大阪市内で講演した(4月11日、主催「新聞うずみ火」)。
国家情報局創設と戦争準備は一体
ことのはじまりは2022年12月に閣議決定された国家安全保障戦略だ。この戦略は中国を「我が国と国際社会の平和と安定を脅かす深刻な懸念事項」ととらえ、「反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有」「防衛費のGDP比2%への引き上げ」とともに「情報収集能力の大幅強化(特に人的情報収集)」を打ち出した。永嶋弁護士によれば国家情報局創設は「南西諸島への自衛隊配備の強化、全国的な長射程ミサイルの配備計画、GDP比2%の前倒し達成、戦時を想定したシェルター確保という戦争準備の動きと一体のもの」なのである。
2022年以降の防衛白書では「陸・海・空・宇宙・サイバー」に加えて6つめの戦争領域として「認知領域を含む情報戦への対処」がうたわれている。「情報戦」(インテリジェンス=情報の収集・分析)における司令塔の機能を担うのが「国家情報局」である。その重要な任務が「外国による情報操作と干渉(FIMI)」への対処だ。FIMIとは、外国政府などによる自国の価値観や手続き、政治的プロセスに悪影響を及ぼす、あるいはその可能性のある一連の行動を指している。FIMIは「多くの場合、合法的に行われ、外国や非国家主体あるいはその影響を受けた集団により、意図的・計画的に、世論への影響工作、大統領選挙などの民主的プロセスの混乱などを目的とするものが多い」と定義されている。
外国代理人登録制度
米・英・仏・ロシアではFIMIに対処するための「外国代理人登録制度」がある。これは外国勢力の利益を代表するエージェント(代理人)で政治活動などを行う者に対して登録を義務づける制度だ。ロシアで2012年に制定された外国エージェント法は、ロシア国内で人権や選挙監視などで活動するNGOを「外国の手先」とみなし、制定からわずか1年で1000以上のNGOが家宅捜索を受けた。罰金を科せられて閉鎖に追い込まれた人権団体も複数あった。ロシアのケースは極端ではあるが、国内の人権団体や政治団体への調査と監視を強め、「外国の手先(スパイ)」という烙印を押して弾圧するところに外国代理人制度の本質がある。
2月20日の施政方針演説で高市首相は「内閣情報調査室を『国家情報局』に格上げし、関係機関からの情報を収集し活用します。その分析結果も活かし、外国からの不当な干渉を防止するための制度設計を進めるなど、必要な対策を講じます」と述べている。ここでいう「制度設計」の中味が「外国代理人登録制度」である。引用した演説の文脈から明らかなように、国家情報局は「外国代理人登録制度」を運用するための情報収集を行う機関である。繰り返し強調しておきたいが、「外国代理人登録制度」は国内のNGO、労働組合、市民団体、政治団体などを監視し弾圧するための制度だ。「国家情報局+外国人代理人制度」、これこそ政府が進めようとしている「スパイ防止法」体制の実態である。
市民監視と弾圧 「スパイ防止法」体制
高市氏は首相就任前の昨年8月25日、日経新聞のインタビューで次のように答えている。「米国は外国からの影響力工作などに対応するための外国代理人登録法(FARA)がある。… 英国やフランスでも制度が導入された。日本にも必要だ」。また自民党の小林鷹之政調会長は、2月19日の記者会見で「外国代理人登録法」の制定を検討していることを明らかにしている。
国家情報局設置法が通れば、次に出てくるのは「外国代理人登録法」だ。「誰が外国代理人か」を調査に必要な情報収集を可能にするために、裁判所の令状がいらない「行政通信傍受(国家安全保障のために情報機関が実施する盗聴)」の導入に踏み込んでくるだろう。
17日の衆院内閣委員会で高市首相は、政府の政策に反対するデモや、普通の市民が情報活動の監視対象になることは「一般には想定しがたい」と答弁したが、それを鵜吞みすることはできない。
これから作られようとしている「スパイ防止法体制」とは、「外国勢力の手先(スパイ)の活動を防止する」という名目で、広範囲に市民を監視し、政府の意に反する活動を弾圧できる体制である。それは永嶋弁護士が強調したように戦争準備の動きと一体のものだ。(香月)
