
福島第一原発の過酷事故から15年。事故後、政府はエネルギー基本計画に「原子力依存度を可能なかぎり低減する」という文言を盛り込んできた。しかし、昨年年2月に発表された第7次エネルギー基本計画ではその文言が消え、原子力を再生可能エネルギーとともに「脱炭素効果の高い電源」と位置づけ、「最大限活用」へと大転換した。高市首相は「資源国に頭を下げる外交を終わらせたい」「エネルギー国内自給率100%をめざす」と発言して、ナショナリズムをあおり原発拡大を推進している。
こうした中で、中部電力浜岡原発で耐震設計データのねつ造・改ざんが内部告発によって発覚した(1月5日)。この問題が深刻なのは原子力規制委員会が不正を見抜けず、中部電力が提出したねつ造データを「妥当」なものと判断していたことだ。
6月7日、大阪市内で「原発と決別し、自然エネルギーのみで成り立つ社会を!」(集会宣言)を掲げて、全国集会が開かれ、降りしきる雨の中、1100人が参加した。集会では弁護士の井戸謙一さんが浜岡原発のデータねつ造事件を取り上げ、「いつ大事故が起こってもおかしくない」「原発をなくす力の基本は市民運動の力」と訴えた。「原発いらね! ふくしま女と仲間たち」の黒田節子さんは、原発事故は「極悪非道の人災」であり、政府が進める「福島復興」がふたたび命を踏みにじっていると怒りを込めて訴えた。(香月)
6月7日、大阪市内で開かれた「原発のない明日を! 全国集会 in おおさか」から、井戸謙一さん(弁護士)、石地優さん(原子力発電に反対する福井県民会議)、黒田節子さん(原発いらね! ふくしま女と仲間たち)の発言を紹介します。(文責・編集部)

浜岡データにねつ造事件を脱原発の突破口に 井戸謙一さん(弁護士)
今、原発をなくす運動には逆風が吹いています。 政府は原発の最大限利用に舵を切り、 2040年代に最大5基を建て替えるとまで言い出しました。
原発利用政策の「3つの神話」
原発最大限利用政策のテコになっているイデオロギーが3つあります。1つは、「原発必要神話」です。 電力供給のために必要だというのですが、資源エネルギー庁の2030年代の電力需要の見通しでも、今よりもせいぜい5%増える程度です。2つ目が、新「原発安全神話」です。新規制基準は世界一厳しい基準だから、これに適合した原発は安全だというのです。これは嘘っぱちです。日本の新規制基準よりも厳しい基準は外国にいくらでもあります。そして3つ目が「被ばく安全神話」です。「原発が万が一事故を起こしても放射能を怖がる必要はない」「福島であれだけの事故が起こったのに、住民の健康被害はゼロだった」というのです。政府は福島の子どもたちから400人を超える甲状腺がん患者が出ても、原因が被ばくであるとは頑として認めません。
しかし、事態は 政府や原子力村の思うようには進みません。それが浜岡データ不正事件です。原発を襲うと考えられている最大の地震動(基準地震動)は、特定の活断層が動いたときに、原発の敷地がどれだけ揺れるかということを計算して判断しなければなりません。中部電力が採用したのは統計的グリーン関数法で、全国の過去の地震データを集め、その平均値を採用するというものでした。中部電力は「ランダムに選んだ20の地震波の平均を採用した」と言いながら、 実際には都合のいい平均波を先に決め、それが平均になるように他の19波を選んでいた。あるいは、「20波の組み合わせ」を多数作り、その中から、最も都合のいい平均波なる「組み合わせ」を選んで、規制委員会に提出していたのです。
不正を見抜けなかった原子力規制委
原子力規制委は、これは前代未聞のねつ造事案であると激怒しており、浜岡3・4号機の適合性審査は最終的に不許可になる可能性さえあります。しかし不正をした中部電力よりも深刻なのは、規制委がこの不正を見抜くことができず、ねつ造された基準地震動を「妥当」と判断・評価していたことです。事件は内部告白によって判明しましたが、それなければ、不正は明らかにならなかったのです。
なぜ規制委は不正に気づかなかったのか。それは 規制委の審査が、一次データの選択や評価の妥当性までチェックする仕組みになっていないからです。規制委が電力会社に提出を求めるのは、一次データではなく、一次データを電力会社が評価した結果だけなんです。他の電力会社も同様の不正をしている可能性は十分にありますが、規制委はそれを電力会社をチェックする姿勢を見せません。
最近の原発差し止め訴訟は、連戦連敗で、裁判所の原子力規制委員会に対する厚い信頼を示す判決・決定が目立つようになっています。しかし浜岡事件で、原発の安全確保の根底である一次データの選択・評価について、規制委が何のチェックをしていないことが明らかになりました。そんなずさんな適合判断に高い価値を認めることはできるでしょうか。
いつ大事故が起きてもおかしくない
浜岡事件は、原発差し止め訴訟の今の流れを変える可能性があります。原発に未来はありません。六ヶ所の再処理工場は稼働できず、使用済み核燃料の行くあてがなくなります。福島原発事故から15年が経過し、再稼働を果たした原発は今15基です。スリーマイルから6年でチェルノブイリが起こり、チェルノブイリから25年で福島が起こりました。福島から15年が経ちました。そして戦争で原発が攻撃される時代にまでなりました。いつ大事故が起こってもおかしくありません。訴訟の場で、市民運動の場で、粘り強く運動を続けることが必要です。

乾式貯蔵を止めて 原発を止める 石地優さん(原子力発電に反対する福井県民会議)
使用済み燃料の貯蔵場所がなくなれば、原発の運転を進めることはできません。使用済み核燃料の置き場であるプールがいっぱいになれば原発は止まります。福井県の使用済み核燃料の状況はどうなっているかというと、関電の原発と敦賀原発(日本原電)に溜まっている使用済み核燃料は4600トンです。そのうち関電が3970トンです。電事連の発表では使用済み核燃料の貯蔵率は89.2%となっています。つまりもう9割方です。このまま進んでいったら、あと数年で自動的に原発は止まるという状況です。
関電が提示した「ロードマップ」
関電は福井県に対して「使用済み燃料対策ロードマップ」を提示しています。その中で、「六ヶ所再処理工場に搬出する」「中間貯蔵施設に搬出する」「フランス国へ一時的に搬出する」「乾式貯蔵施設を作って、そこに使用済み核燃料を入れる」という4つの対策を示しています。はじめの3つは実現性がありません。関電が一番あてにしているのは乾式貯蔵施設です。福井県が「使用済み核燃料は県外に」という立場をですので、今まで関電は「原発構内に乾式貯蔵施設を作る」とは言えませんでした。それを堂々と言い出したのが、このロードマップです。逆に考えれば、乾式貯蔵施設を稼働させなければ原発は止まります。原発反対の首長を誕生させなくても、それから住民投票で勝たなくても、裁判で勝たなくても、 乾式貯蔵施設さえ稼働させなければ原発は止まります。これが今日、皆さんに一番伝えたかったことです。
戦時に原発は狙われる
戦争時には原発は狙われます。「原発の最大限活用」というのであれば、日本は平和外交に努力せなあかんのに、軍備拡張して戦争に進んでいるというのは異常事態です。多くの国民に「今、原発を動かすというのは最悪の選択ですよ」ということを広めたいと思います。

命踏みつける「福島復興」の欺瞞 黒田節子さん(原発いらね! ふくしま女と仲間たち)
地元の仲間が放射線量を測っています、5年ごとに同じところを。「除染の効果はないんじゃないか」「この高レベルの放射能をどうするのか」と彼は叫んでいます。
大型化・機械化・ロボット化と移住促進
浪江町にこの春から超大型の畜産牧場が稼働しました。25ヘクタール、ホルスタイン2000頭。ロボット利用で50頭同時搾乳。未来型最先端酪農。これでいいんでしょうか。何でも大型化、機械化、ロボット化。優しい目をした牛さんたち、一生ロボット工場から出られない牛たちが人間に逆襲する時がやってくるんじゃないか。私はいつも悪い夢を見ています。
「移住はロックだ!」(※注)と、子育てに手厚い補助金、制服や給食まで無料というところも。「5年住めば家が建つ」と言われています。放射能のことを知らされていない新住民が、原発立地町村で3000人以上増えています。すべては利権・お金。それらときっぱり対峙して、命と未来への責任を追求していく必要があると思っています。水俣と福島、どちらも極悪非道の人災です。しかし希望はあります。全国各地で若い人が立ち上がっています。高市政権を一日も早く追放しましょう。
「歩く風評加害者」と呼ばれます。いいじゃないですか。命を最優先することが「非国民」って言うんだったら。原発やめろ! ノーモア・フクシマ!
(※注)「移住はロックだ!」 原発事故により避難指示等の対象となった12市町村への移住・定住促進を目的に2021年に設置された「ふくしま12市町村移住支援センター」が、昨年10月、南相馬市で共催したロックフェスのキャッチフレーズ。
