ジャーナリストの西谷文和さんが、5月3日発行『なぜ中東で戦争が終わらないのか』(かもがわ出版)を出版された。一般の人々が本や新聞で学ぶことには限界がある。実際の現地(戦場)を見て、その地の人々と交流して得た生きた情報は貴重だと思い、すぐ購入した。

認識の齟齬にショック
 しかし、実は初っぱなからショックを受け、頭を抱えたのが正直な感想だ。「ハマスとはどういう組織か」「2023年10月7日の戦闘をどう理解するか」という最も肝心なところでの認識の齟齬である。以下、西谷さんの文面を紹介したい。
 「ネタニヤフはパレスチナ(ヨルダン川西岸のPLO〔ファタハ〕とガザのハマス)の分断をはかるため、カタールからの資金をハマスに投入し、ハマスを育てた。ハマス民生部の学校や病院、モスクなどの社会福祉サービスに必要な資金は、湾岸諸国の援助もあるが、実はカタールとネタニヤフから出ている」とある。
 「そんなことをしてネタニヤフの利点はどこにあるのか?」という疑問には以下のような説明がされる。「ネタニヤフは国際的な戦争犯罪人として、さらにばく大な汚職犯として首相を辞任するとなると即、逮捕である。そこでハマスにテロを起こさせ、それをイスラエル軍が100倍にして報復してみせて、強い首相としての自分の存在感と人気を高めて、独裁の維持をはかっている」「ガザの次はヒズボラ、イエメン、そしてイランと常に戦争を継続させなければ自分の身、地位を守れない。司法を屈服させ、国民をあきらめさせ、汚職事件を風化させていくためには、とぎれない戦闘に協力してテロをおこなってくれるハマスが必要。ネタニヤフとハマスはもちつもたれつの関係」。

ハマスのやり過ぎ?
 さらに2023年10月7日の戦闘については、西谷さんはこのように分析している。「ネタニヤフはさじ加減を間違えた。ハマスとの軌道修正のためにも、徹底的にガザを粉砕するだろう」と。10月7日のイスラエル人の犠牲もいたましいが、そのまた報復でガザせん滅には世界中の人々が心を痛めた。 血まみれの子ども、ひきちぎられた女性の遺体を見るのは耐え難い。
 以下は私の気持ちだが、今ここであえてイスラエルの人々に言いたい。「あなたたちも今回は悲惨な犠牲を負ったが、ここに至るまでにその何万倍ものパレスチナ人民の悲惨を強いたのはあなたたちだ。今こそ、立ち止まって考えてほしい」。侵略国の日本人であるわたしたちも同じ立場だが、侵略国イスラエルとパレスチナの「暴力」は同じように見えるが、根本的に違うのだ。

「言論」と「非暴力」は可能か
 西谷さんはさらに以下のように強調する。
 「日本の左翼側の一部に『10月7日は仕方なかった。虐げられてきたハマスの奇襲攻撃はテロではなく抵抗運動だった』などと言う人がいるが言語道断である。間違いなくこれはテロで無差別殺人だ。ハマスの無謀なテロはネタニヤフにガザへのジェノサイドの口実を与えてしまった」「ハマスはとても罪深い武装集団であって1ミリも擁護するべきでない」「イスラエルの殺りくや残虐行為に対しては言論で抗議し、非暴力で抵抗すべきだった」。
 私自身も確信ある路線を持っている人間ではないが、これはヒドイ!
 戦火のガザに「言論の自由」があるのか。自分の家も畑も奪われ、家族が殺されても「非武装」でただ黙って見ているのか? そうすればどうなるか誰でも分かる。ガザ地区もヨルダン川西岸地区も消滅する。刻一刻と入植地は増えていき、イスラエルは全土を占領するだろう。パレスチナ人民は全員、シナイ半島にでも逃げていくしかないのか。それとも「民族浄化」論のユダヤシオニストの宗教的信念どおり全員消滅しろというのか。

「流された血の量」で兵器を宣伝
 私と西谷さんの考え方には一部で相違はあるが、この本を読んで認識を新たにすることも多かった。今年1月上旬に、自民党中心の国会議員団15名が、ネタニヤフの金(招待)でイスラエルを訪問した。そこでの課題はイスラエルの最新兵器の購入・検討である。イスラエルは世界一の最新兵器の製造国といわれ、「売れ筋商品」は次の2種である。
 1点目は無人機(ドローン)の優秀性。その売り込み(宣伝)に「ガザでこれほどの成果(殺人のこと)を上げた」とネタニヤフが胸を張ったといわれている。
 もう一点は、顔認証システム。以前はパレスチナ人が西岸の出入り口を通るときに、イスラエルの検問の通過に何時間もかかり、車は長蛇の列を強制された。救急車も例外ではなく、幾人もの病人や妊婦が死んでいった(殺されたのだ)。現在の検問は一瞬で終わる。なぜならイスラエルはパレスチナ人全員の顔データを認証システムにインプットして管理しているからである。世界で最も進んだ群衆監視システムをイスラエルは持っている。
 見えない鉄格子の中に押し込められ、いつピンポイントで殺されるかわからない状態にパレスチナ人民はおかれている。兵器の性能を中東人民が流した血の量の多さで宣伝する「死の商人」たるイスラエルとアメリカ。イランの女子学生175人を虐殺しながら「誤爆」と居直る米軍。白人の侵略軍は「アラブ人はラクダは乗れても戦闘機は無理だ」と侮り、二級市民(劣等民族)と見ている。軽い命と笑っているのか。おそらく米軍は「見せしめ」として少女たちの死を使ったのだろう。(つづく)〔朽木野リン〕